珍しく本の雑感Ⅱ

聞いた事がある名前だった。
嫁さんに聞いたら良くテレビにも出て来るそうだ。
本を読んで分かったがこのヒトはプロのロシア語通訳。
幼少期にチェコプラハで暮らした帰国子女。
通訳として著名人であるだけでは無い何かを持っている様だ。
もちろん通訳も一流らしいが、モノの捉え方がおもろい。
言葉のプロとして、帰国子女としての日本語の捉え方。
結構、この本はウロコだらけになる。
また、結構笑える。
笑いのセンスも気に入った。

  • タイトル

著者はあまり良く知らなかったがタイトルが引っ掛かった。
「不実な美女か貞淑な醜女か」と来た。
平成6年にこの本で読売文学賞を受賞したそうだ。
時の選者の1人、大江健三郎氏をして言わしめた。
「我が読売文学賞の歴史において最悪のタイトル」だそうだ。
そうかな・・・?
読後には他にタイトルが考えられないくらいだけど・・・。

  • シモネタ

このヒトのお師匠さんがシモネタ好きらしい。
が、本人も結構好きそうである。
実に良く出て来る。
小話「退職願い」が印象深い。
ある日、各臓器が会議を開き「退職願い」を募った。
まず心臓が手を挙げた。「もう疲れた」
全員が却下。「君が退職したら全員お陀仏だ」
次に肺が挙手。「こんな男の為に働くのはうんざりだ」
又、全員が却下。「短気を起こすな。皆同じ気持ちだ」
胃も挙手、却下。腸も却下。
その時、片隅から小さな声。「僕も引退したいんですが・・・」
「誰だ?良く聞こえないぞ。きちんと立って発言しろ」
「立てるくらいなら引退なんかしません」
と言う小話を老人の集まりでぶった顰蹙を買ったヒトの話とか・・・。

  • 母音

そんな事、意識した事も無かったが・・・。
日本語の母音は5つ、アイウエオだ。
フランス語ってのは14〜16もあるそうだ。
どだい母音5つのヒトが16の母音を使い分けるのは至難のワザだろう。
アジア系の言葉ってのは母音が少ないのかな・・・。
アラビア語は3音だそうだ。
日本語のエとオが無いんだとか。
従ってアラビア語で聞く日本語は間違いが頻発するらしい。
幸福とクウフク、ボスとブス、音痴とウンチ、偏食とヒンシュク・・・。
なるほど。

  • その他ウロコ

その他にもウロコはいっぱいあった。
外国に無い言葉(概念)もあると言う事。
言われてみりゃ有り得る事ではあるが・・・。
欧州人には「肩凝り」と言う言葉も感覚も無いそうだ。
ふうう〜〜ん。
ピップは欧州に進出出来ないじゃん。
「消極語彙(知識)」と「積極語彙(知識)」もウロコだった。
言われてみれば読めても(消極語彙)書けない(積極語彙)漢字は多い。
同じく聞けても話せない言葉も多い。
お師匠さんの戒めとして紹介されていた話は含蓄があった。
「他人の通訳を聞いて何てヘタだ、と感じたら自分と同レベルと思え」
「この程度の通訳なら私も出来る、と感じたら遥か上のレベルと思え」
なるほどと思った。
仕事や趣味の世界にも共通する話だ。
もう1つ「冗語性」と言う言葉も出て来た。
これは内容を左右しない余計な言葉の占める割合の事。
一般的に話し言葉の冗語性は60〜70%だそうだ。
時にはほぼ100%と言う事もあるらしい。
「え〜、私が思いますに、良く言われる事ではありますが早い話が・・・」
と言うアレである。
これが通訳にとっては死活問題なんだそうだ。
これがあるから通訳が生きて行けると言う事らしい。
文書と言うのはクセモノだそうだ。
贅肉を可能な限り削ぎ落としたモノが良い文書だ。
これを棒読みされた時、通訳はキレるらしい。
文書を読む会議などは事前に原稿を配布するのが主催者の常識とか。
なるほど。

  • 国語教育

この本で一番感じ入ったのはこの話だ。
日本と諸外国での教育の違い。
自国語を、自国文化を全く大事にしない珍しい国家の話。
バブリーで浅薄な日本のバイリンガル志向の危険性。
これはおもろかった。
帰国子女は母国語に、日本語に憧れを持って帰って来るそうだ。
外から日本語を見て、慈しみながら扱う感覚がある様だ。
そう言えば何の気無しに嫁さんと話した事がある。
「帰国子女って日本語がキレイだよねえ・・・」
諸外国では言葉=文化と捉えているそうだ。
著者はプラハで小学校に通った。
授業の大半は国語だったそうだ。
国語の内半分は自国文学に触れる時間に充てられる。
しかも子供用ダイジェスト版では無いフルバージョンとか。
文学を読んで内容を上手く説明するのが授業だと言う。
小学校の図書館の司書は本を返す時に必ず内容の説明を求めるそうだ。
考え方の違いはあまりに大きい。
著者は帰国してから日本の学校で国語の授業を受けた。
あまりの教育内容の違いにひっくり返ったらしい。
作品の感想を次のア〜オから選べ、と言うテストを見て固まったとか。
マルバツ、5択、マークシートが日本の教育の基本だ。
論文とかプレゼンは特殊な世界のヒトだけのモノだ。
カネとモノでじゃぶじゃぶになったこの国では望むべくも無いが・・・。
躾とか教育を真面目に考えるヒトは壊滅したんだろうなあ。

  • 天動説

奇しくも天動説を信じる小学生が4割を占めていると言う報道があった。
そもそも報道が正しく無いんじゃないの?
そんな事、考えた事も無いって事じゃないの?
誰にも教えてもらって無いし、テレビゲームにも影響無いし・・・。
みんなフツーに「陽が昇って沈む」って言ってんじゃん。
そりゃそーだ。
地動説の証拠も見た事無いし・・・。
こんな世の中に天動説復活もおもろいかも・・・。

  • 三つ児の魂

著者のホンネだと思うが浅薄なバイリンガル志向を一刀両断。
ある著名女性アナウンサーが結婚してのたもうたそうだ。
「子供が出来たら家では全て英語で暮らします」
行間に「このうすらバカ!」と書いてあるのが良く見えた。
子供は三つ児の魂が大切。
この期間に子供の個性的基本を作らないと大変な事になる。
自分自身を持てない不安定な子供になってしまうそうだ。
成長するに従って情緒不安定になり、精神に障害を来たす事もあるとか。
個性的基本を作るには母国語のなるべく私的語の母親の愛語が良い。
そりゃそーだろうな。