珍しくも無い本の雑感23(2)

【敗戦真相記】

本の後半はこれからの日本のことに触れてる。
圧巻だった。
この著者の読みがすごいと思った。
敗戦後、日本は全てを失った。
気づいてみたら土地と人間しか残っていなかった。
日本国中が呆然自失だっただろう。
資本の大半を喪失して放り出されたら餓えるしかない。
そこで日本国民はポツダム宣言を深く読むべきだ。
第一次世界大戦後のドイツが教訓となっている。
連合軍は敗戦国を絶望させるとロクなことがないと知ったはずだ。
連合軍は日本人を地上から抹殺しようとはしないだろう。
っという読みである。
日本人を生かしておくんならちょっと工夫が必要だ。
上手にキバを抜いて飼い馴らさなきゃいかん。
これがポツダム宣言の考え方の根底にあったんだろう。
日本はまず文化的劣等国である現実を自覚すべきだ。
そうすれば一部戦犯を除き国民が平和に暮らす機会を与えられる。
ポツダム宣言の意図を理解し真剣な反省と努力が必要だ。
進駐軍から物質的方面だけでなく精神的方面で学ぶべきだ。
日本が新たに平和国家の方向に立ち上がれば前途は明るい。
でもちゃんと読んだヒトは少なかったみたい・・・。

  • 将来予測

これもすごいと思った。
実に的確に将来を読んでる。

    1. 「官僚閥の払拭」・・・軍閥は解体されたが軍閥以上に深く根を下ろしている官僚閥は今後も潜行的にその勢力の維持を図るに相違ない。日本の民主主義を圧迫する勢力に国民が責任糾弾の手をゆるめず、官吏の特権的色彩を払拭する必要がある。
    2. 「目先の食糧問題」・・・経済面では目先の問題と永久的な問題に分けなければならないが、まずは目先の食糧問題を内閣全体が農林省になって解決しなければならない。兵の復員を後回しにして食糧輸送を優先しないと来春には1千万人が餓死するという試算が出ている。
    3. 「今後の日本の産業」・・・7千8百万人を養う為には余剰人口約2千8百万人の労力を商品の形にして輸出して、その代償として食糧を輸入する以外にない。その商品はなるべく少ない材料で労力を沢山喰う産業でなければならない。それは精密機械、絹織物などの加工細工をしたものである。
    4. 「公正なる実物賠償」・・・ポツダム宣言には国民生活を維持した残りで賠償を支払うだけの産業の維持を約束しており、第一次世界大戦後のドイツに課せられた天文学的数字を連想する必要はないと思う。また「実物賠償」と言う表現にアメリカの千万無量の含みがある。日本には台湾、満州、朝鮮などの喪失領土における各種資産以外に償う実物は無い。仮に実物賠償を取り立てる為に連合国側が日本に対し設備・原料を供給してくれるのであれば、むしろ救いの神というべきだ。
    5. 「青少年の教育問題」・・・今後の教育問題は日本再建の運命を根本的に決するものであり、その方向は智能の士よりも心理の人である。従来の小手先の器用な人間をつくる技術万能主義を改めて、人間として信用し得る人格本位の教育制度を確立すべきである。
    6. 「楽しい将来設計」・・・プラスに考えると大東亜戦争は予期せざる一種の無欠社会革命を起こし、貧富の差を著しく減少させた。このことは目前の危機を切り抜け、政治経済の民主化をはかる上でも役立つ。仮に今後日本人が1日10時間働くとすれば、衣食住の為に3時間、戦災復興の為に2時間、残り5時間を賠償支払いの為に働くことになるだろう。そして復興が終わり、賠償を払い終えた後には日本人は半日を人間として内容を豊かにする為の時間として使えるようになる。これは軍備から開放された平和国家の特権と言える。

すっごいなあ・・・。
敗戦の1ヶ月後にこんな内容の講演をしてた。
もちろん多少のリップサービスもあるかも知れない。
でも打ちのめされた国民に希望を与えたんじゃないかな?
一瞬でもポツダム宣言に忠実に頑張ろうって気になったかも・・・。
3歩歩くと忘れるけど・・・。

  • 連合国側

著者は米英中ソの動向も読んでる。
これもまたなかなか・・・。
昔から漠然と疑問には思っていた。
これだけの大罪を犯した国がどうしてオトガメなし・・・?
どうして朝鮮やベトナムの様にならなかったのか?
一歩間違えば、東日本と西日本で戦争してたかも・・・。
フォッサマグナあたりが緩衝地帯で・・・。
もっと分割された植民地だって有り得た。
単なるラッキーである訳がない。。
少し謎が解けた気がする。
いろんな要素が絡んでいたが米国の発言力が強くて幸いした。
列強諸国のエゴのせめぎ合い。
東西冷戦構造前夜。
第一次世界大戦後のドイツへの仕打ちの学習機能。
ポツダム宣言のしばり・・・。
いろんな要素があった。

    1. 「アメリカ」・・・真珠湾奇襲で米国民の日本への印象は最悪だったはず。にもかかわらず、進駐軍を派遣して事細かに面倒見てくれている。日本がポツダム宣言に忠実ならばきっと支援してくれる。
    2. 「イギリス」・・・英国は日英同盟に未練を残していた。日本国民も同盟解消は寂しかった。英国は支那撤兵の妥協案を提示し、最後まで見方してくれた。その時英国と手を握っていれば・・・と死児の歳を数えたくなる。更に皇室制度の存続には英国が尽力してくれた節がある。
    3. ソ連」・・・ソ連は徹底した現実外交しかしない国で理解出来ない点が多い。ソ連と付き合うには一目置かれる国力が必要である。日本に対する宣戦の経緯、終戦後の満州北朝鮮樺太の動きは不穏である。ポツダム宣言の実行にあたっても如何なる事態が発生するのか懸念している。
    4. 支那」・・・支那に対する日本人の国民感情はこの戦争の前後で大きく変化した。支那民族に優越感を持ち8年間にわたって支那大陸を踏みにじっていた訳で、支那人が敗戦により日本人を打ちのめしてやろうと思うのが当然の感情である。300万人の支那派遣軍は故郷の土を踏めるか心配していた。ところが8月15日の終戦に際しての蒋介石の演説に思わず「参った」と口走ったほど感銘を受けた。この蒋介石の大精神に思わず合掌した。

情けない話だけど知らなかった。
中国や韓国が怒ってる理由がちょっとわかった。

知らないという事は恐ろしい。
恐らく自分だけじゃないと思うなあ・・・。
ちょっとショックだった。
終戦に際しての蒋介石の演説。

 同胞諸君、今や我々の頭上に勝利の栄光が輝くに至った。永い間、到底、筆舌に尽くし難い凌辱をうけながらこれに屈せず、よく戦い抜いた諸君の労苦によって我が敵は遂に我が軍門に降ったのである。我が中国人があの暗黒と絶望の時代を通じて、忠勇にして仁慈、真に偉大なる我が伝統的精神を堅持したことに対し、まさに報奨を受くべき時機が到来したのである。しかしながら我々が終始一貫戦った相手は日本の好戦的軍閥であって、日本国民ではないのであるから、日本国民に対し恨みに報いるに恨みをもってする暴を加えてはならない。
 民族相互が真に相手を信じ合い、尊重し合わなければならないということを腹の底から悟ることが、この戦争の最大の報償でなくてはならない。これによって今後、土地に東西の別なく人間に皮膚の色の別なく、あらゆる人類は一様に兄弟のように平和に暮らすことができるものと信ずる。自分はいまさらのごとく「なんじの敵を愛せよ」「なんじら人にせられんと思うごとく人にしかせよ」と訓えられたキリストの言葉を想い出すのである。もしこれに反し暴に報いるに暴をもってし、奴辱に対するに奴辱をもってしたならば、冤と冤とは相報い、永久にとどまるところを知らないであろう。こんなことは我々正義の師の目的とするところではないのである。我々は単に敵国人をして己の犯した錯誤と失敗を承認せしむるばかりでなく、さらに進んで公平にして、正義の競争が彼らのなした強権と恐怖による武力競争に比べて、いかに真理と人道の要求に合するものであるかということを承認せしめなくてはならない。換言すれば、敵を武力的に屈服せしむるばかりでなく、理性の戦場においても我々に征服せられ、彼らに懺悔を知らしめ、これをして世界における和平愛好の1分子たらしめ・u桙ネければならない。この目的を達成したとき初めて今次大戦最後の目的が達せられたことになるのである。

蒋介石って大恩人じゃん。
この結果、悲惨な復讐場面も無く復員出来たんだ。
まさに「罪を憎んで人を憎まず」みたいな・・・。
ひょっとしてジュンちゃん達はこのこと知らないんじゃない?

  • 「和魂(にぎみたま)」

こんな言葉、初めて聞いた。
反対語は「荒魂(あらみたま)」なんだとか。
ポツダム宣言の第10条にはこの考え方が含まれているそうだ。
基本的に一部戦犯は厳重な処罰を加えられるべきだ。
でも一般国民は抹殺されるべきではない。
必ず「民主主義的傾向の復活強化」を約束する。
ってな内容で、その背景にあるのがこれ。
日本人本来の面目は伊勢神宮の神鏡に表象される「和魂」
熱田神宮の宝剣に表象される「荒魂」は二次的なもの。
この「荒魂」の内の悪質な部分は戦犯処理で取り除く。
そうすれば2度とこの過誤は繰り返すまい。
何て寛大なんだべ・・・。

  • 「無気力」

後から見れば何故こんなバカな事を・・・と思う。
が、その当事者はなかなか軌道修正が出来ない。
よくある話。
何故、日本はここまで軍部の独裁を許したのか?
著者は「無気力」を認めざるを得ないと言う。
議会、財界、文化各方面の人たちの「無気力」
国が戦争を起こしそうな時に「無気力」?
ドイツは国を挙げてナチスを支持した。
敗戦後は全ての罪をナチスに被せて謝罪・幕引きしちゃった。
ナチスの記念碑や慰霊塔なんてないだろう。
最近はネオナチなんてのがいるらしいけど・・・。
日本は軍閥を支持もしなかったけど、反対もしなかった。
だから敗戦後も責任問題はうにゃむにゃ・・・。
これが靖国問題とつながっていそうだ。
「無気力」「無関心」「無責任」は伝統的かな・・・。
60年経った今もまったくおんなじ。
これから大変な少子高齢時代に入って行くのに危機感ゼロ。
これってやっぱ国民性かな・・・?

  • 不勉強

確かアメリカ駐日大使のセリフだったと思う。
「歴史を知ろうとしければ、きっと歴史が教えに来る」
ホントに日本人は近代史を知らない。
薄っぺらな知識しか持ってない。
個人の努力不足も否定しない。
平和ボケで何にも考えないでも生きて行けるのも事実。
でもガッコの歴史教育を変えた方がいい。
近代史から順番に遡って行った方が役に立つんじゃないかな・・・?
石器時代の知識がそんなに役に立つと思えないし・・・。
最近は留学なんかで学生の頃から海外で暮らすヒトが増えてる。
良く聞く話だけど、どの国の学生も自国のことを良く知ってる。
日本人は自国の歴史を知らなさ過ぎて恥をかく事が多いとか。
中国や韓国が怒ってるのはこのヘンじゃないかな・・・。
多分、中国・韓国だけじゃない。
東南アジア全体やアメリカ・オーストラリアも同じはず。
特に中国は深い思い入れがあるかも・・・。
恩赦を与えた犯罪者に「ふん」とか言われたみたいな・・・。
そりゃあったまくるよなあ・・・。
ジュンちゃん対談なんかキャンセルして帰っちゃうかもね・・・。