忠犬「ゆり」のこと

  • 電話

 一昨日、実家の「ば〜ば」から電話が来た。
嫁さんと何やら話し込んでた。
嫁さんのリアクションが妙に大きい。
ヤな予感・・・。
 受話器を置いた嫁さんは明らかに動揺してた。
「どしたん?」
「『ゆりちゃん』がケガしたんだって・・・」
「ケガ?」
「『じ〜じ』とヤマに散歩に行って、イノシシに襲われたんだって」
「へ?」
 「手術して入院してるんだって・・・」
「じ〜じ」も相当ショックを受けたらしい。
夕べは「ゆりっ!ゆりっ!」とうなされていたとか・・・。
とんだ災難だった・・・。

  • 忠犬

 「じ〜じ」も、『ゆり』も、ヤマ歩きが大好き。
1〜2時間の散歩が日課である。
ところが、たまたまイノシシとバッタリ。
「じ〜じ」は腰が抜けて、動けなくなっちゃったらしい。
 ”やばいっ!襲われる!”
そう思った瞬間、『ゆり』がイノシシに向かってったそうな。
でも、さすがにガタイが違う。
太ももを突かれてしまったらしい。
深手を負って、「じ〜じ」のところに逃げてきたとか。
 それで「じ〜じ」も我に返った。
丸太ン棒を手にして向かって行ったら、イノシシは逃げたという。
「ば〜ば」いわく、「じ〜じ」の身代わりになった・・・。
「じ〜じ」を守って大ケガをした・・・。
忠犬「ゆり」である。

  • ヤマ

 ヤマはやっぱりヤマである。
自然には何があるかわかんない。
町内の公園とは訳が違う。
今までも何度かひどい目にあってる。
 一度はススメバチに刺されて半ショック状態になった。
医者には脅されてる。
「今度、刺されたら命が危ないですよ」
さすがにそれからは、ハチ対策には気を使ってるらしい。
 マムシに出くわした事もあった。
この時は「ゆり」が噛まれた。
病院へ緊急搬送。
死ぬか生きるかの大騒ぎだったらしい。
でも、懲りない・・・。

  • 獅子

 「何で、じ〜じは警棒使わなかったんだべ?」
「そんなゆとり、ないわよ」
「でも、警棒で一撃すれば、追っ払えないかな?」
「あま〜いっ!それはイノシシを知らないヒトのセリフだわ」
 何でも、嫁さんの実家の裏山はイノシシの宝庫だったとか。
子どもの頃、ヤマん中を走り回る姿を良く見たそうな。
そりゃ、デカくて、早くて、恐かったらしい。
「あんなのに、立ち向かうなんてトンでもないわよ」
っだそうだ。
 そう言えば、嫁さんの実家の住所は「獅子浜」っていう。
いかにも沢山いそうな地名である。
でも、人家にはまず下りて来なかったらしい。
イノシシと共存してたんだべか?

  • 見舞い

 「ゆり」の見舞いに行ってあげたいけど、難しい。
何せ、この時季である。
嫁さんに頼んだ。
「とりあえず、『ゆり』宛てに「花」を送ってよ」
 「『ゆりちゃん』じゃないでしょ。『じ〜じ』宛てでしょうよ」
「そ〜かあ?」
「そ〜に決まってるでしょうよ」
「じゃ、連名にしといてよ。『じ〜じ』と『ゆり』で・・・」
「ったく・・・」
 夜「ば〜ば」からお礼の電話が来た。
今日、「ゆり」が退院出来たという。
声はずいぶん元気そうだった。
「7万5千円も取られちゃったよ」
「そりゃ、痛いけどしょうがないね」
「そ、しょうがないだよ。痛い思いしたのは『ゆり』なんだから・・・」
忠犬「ゆり」は、今日は居間で寝てるそうだ・・・。