和食屋の雑感16(2)

  • 「松茸」

 予感は的中。
どれもこれも凄まじい料理だった。

 【吸い物】
松茸土瓶蒸し、鱧、車海老、銀杏、三つ葉、酢橘

 まず、器が以前とまったく違う。
どー見ても、何度も使いまわした年季の入った器だ。
【土瓶蒸し】は、【銅瓶入り吸い物】だった。
間違いなく「永谷園」の方が、ぜんぜん香りがいい。
 15mm四方のコンパクトな鱧。
小指ほどの固い車海老。
半分、ドライフルーツっぽくなった銀杏。
溶ける寸前まで煮込まれた三つ葉のカケラ。
これらが、「銅瓶」の底にチョロチョロっと沈んでる。
 あの「キヌカツギ」のようなアタマの「松茸」はどこに・・・?
いたっ!
幅8mm、長さ30mm、厚さ0.5mmってとこかな・・・。
かろうじて、向こうが透けてないっくらい。
これが、2枚・・・。
「共同広告機構」に訴えちゃろーかっ!
 味は・・・。
想像通りの見事なしょっぱさ・・・。

「・・・ひでえな、こりゃ・・・」
「板前さん、代わっちゃったのかしら・・・」
「きっと、刺身を見ればわかるな・・・」

  • 若い衆

 お造り登場。
一応、サカナの名前は言い置いて行った。

 【季節のお造り】
マグロ赤身、真鯛、カンパチ、ボタン海老、添え野菜、山葵

 これを見て確信した。
明らかに、今までと仕事が違う。
ブツ切りじゃんっ!
ガサツな切り口、やっつけの盛り付け・・・。
 見ただけで、食欲が減退しそう・・・。
カンパチに至っては、切り身がつながってた。
南京玉簾か・・・?
 さすがに、嫁さんがベテランっぽいスタッフをつかまえた。

「板前さん、代わったんですか?」
「いえ、板長は代わっておりませんが、ちょっと若い衆が入ってますけど・・・」
「若い衆ねえ・・・。それで味が違うのかな・・・?」
「何か、ございましたか?」
「うん、前と違うな〜って思って・・・。前の方がいいですね・・・」
「はあ・・・。混んでるもんですから済みません・・・」

  • 落胆

 以下、全てが同じパターン。
しょっぱくてトゲトゲしたダシ汁がベース。
混んでるからって事かも知れないが、全て作り置きされて乾いてた。
多分、素材だけはケチってない。
それだけに、もったいない・・・。

 【煮物】
かぶら秋香り、紅葉鯛、いちょう丸十、しめじ、菊花

 いいかぶらだった。
真鯛は10mm四方の芸術的な大きさで、紅葉オロシがかかってる。
ピンセットで仕事したんじゃないか・・・?
せっかくの菊の花入り餡かけでも、塩味しかしなかった。

 【焼き物】
伊勢海老雲丹焼き、万願寺とうからし、零余子、はじかみ

 いい雲丹だった。
伊勢海老の干物みたいな焼き物は、パッサパサで喰うとこがない。
どっかの温泉旅館の宴会で、最後まで残った料理みたいだった。

 【合い肴】
鮑ちり蒸し、絹ごし、柚子

 いい鮑だった。
素材だけはいいんだよなあ・・・。
でも、ダシ汁が全部同じだから、全部ダメにしてる。
絹ごしを使ってる分、フヌケた味になってた。
干からびてなかっただけでも、幸運か・・・。

 【酢の物】
蟹塩茹で、蛇腹胡瓜、茗荷、加減酢

 しばらく冷蔵庫に入ってたんだべ。
器ごと、めっちゃ冷たかった。
そして、酢が浸み込み過ぎてヘタヘタになった具材。
蟹は予想通りのドしょっぱさ・・・。
嫁さんの「蛇腹胡瓜」は半分ちぎれて行方不明。
どっか、余所んちの器に入ってんだべ・・・。

 【食事】
松茸ご飯、香の物、赤だし

 もう、どーせ作り置いてあるんだから、とっとと持って来いっ!
ヤケになって催促した。
もう、喰う前から味がわかってるし・・・。
香りのない、しょっぱい炊き込みご飯の、「松茸」ミクロスライス乗せ。
もちろん、香の物も、赤だしもしょっぱい。

 【水菓子】
季節の果物、なし、柿、ぶどう

 いい柿だった。
でも、もうどーでもいい。
お茶とは別に冷たい水をオーダー。
しょっぱ過ぎて、喉が渇くってなアピールである。
通じないか・・・?

  • 隔世の感

 もう、あっきれかえって、思わず屁が出た。
いくら我々の舌が痩せてきたって言ってもだなあ・・・。
この仕打ちは許せない。
2人で1万円以上払うんだぜっ!
 1年前のblogを読むと信じらんない。
あの時は絶賛してる。
飛び込みで、しかも定価は去年の方が安かったのに・・・。
隔世の感があるべや。
何なんだ・・・???

  • 好意

 好意的に解釈してみる。
たまたま団体が沢山入っちゃった。
板さんがかかりっきりで相手出来そうもない。
若い衆も担当しないと、とっても手が回りそうもない。
 作り置き出来るものは、先に準備しとこ。
ダシ汁は団体さんと共通だ。
器も、今日は団体さんと共通で勘弁してもらおう。
こんな感じだべか・・・?
 でも・・・。

「板前の手が回らないほど混んでるなら、断われよっ!」

 もの凄い、コストパフォーマンスだった・・・。
あの内容だったら、1,500円でも高過ぎるべや。
もう一度足を運ぶ勇気はないなあ・・・。