珍しくも無い本の雑感41(6)

  【小説 上杉鷹山

  • 右腕

 小姓に「佐藤文四郎」という男がいた。
真っ黒に日焼けした無骨な風体だったそうだ。
お世辞なんて死んでも言えない。
藩主にもズケズケと苦言を呈する。
およそ、小姓っぽくない硬骨漢だったとか。
 「佐藤」は、ちょー感激屋だった。
すぐにうるうるしちゃう。
いたるところで登場して感激する。
ふと気づいた。
これは著者の作戦かも知んない・・・。

  • 藩校

 「治憲」は地域振興で改革に成功した。
功績はそれだけじゃなかった。
地域物産と同時にヒトを育てなきゃダメだと説いた。
藩校を作って、江戸から先生を招いて、誰でも学べる藩校・・・。
 でも、カネが無かった。
そこで改革派が中心となって寄付を募った。
「佐藤」は先祖伝来の鎧兜を質屋に持ち込んだ。
その店にはすでに仲間の持ち込んだ鎧兜が並んでいた。
 「佐藤」は50両貸してくれと言った。
質屋のオヤジは冗談でしょ、5両がせいぜいだと言う。
散々、駆け引きして最後は8両を手に入れた。
オヤジいわく、
「お貸しするのはあくまで7両です。1両は私の上納金です」
「佐藤」の眼がうるむ・・・。

 天明2年(1782年)大飢饉が襲った。
日本中が冷夏と長雨で農作物は全滅。
全国300藩で備蓄があったのは4藩だけだったそうだ。
紀州・水戸・熊本、そして米沢だったとか。
改革の成果がモロに出てるべや。
 「治憲」の打った手は的確だった。

    1. 藩内に米を支給するので粥にして喰せ。
    2. 酒・豆腐など、穀類を原料とする品の製造を禁止する。
    3. 近隣諸藩の救援要求は、忍びぬところなれど謝絶せよ。
    4. しかし、他領から流入する飢民は藩民同様に保護せよ。

 他藩の為政者の失政まで面倒はみない。
でも、犠牲になる民衆には愛情を注ぐというスタンスだべ。
米沢には関東・東北からドッとヒトが押し寄せたそうだ。
たちまち藩の米蔵は空になった。
でも、米沢藩では1人も餓死者を出さなかったとか・・・。

  • 隠居

 飢饉を乗り切った後、「治憲」は突然隠居する。
天明5年(1785年)、35歳である。
この時から「鷹山」と号した。
実は「治憲」が養子に入った後で先代「重定」に男子が出来た。
「治憲」はこの子を13歳の時に世子にした。
何の未練もなく藩主を本家に戻した。
ホンットに出来過ぎだべさ。
 この本の最後の場面がすんごくいい・・・。
「佐藤」が「鷹山」を遠乗りに誘う。
行く先は板谷峠
「鷹山」が初めて米沢に入国した時に越えたあの峠である。

  • 「棒杭の商い」

 山道の道端に数本の杭が立っていた。
それぞれザルがヒモで吊るされ、中にいろんなモンが入ってる。
にぎりめし・わらじ・干し柿・野菜・笠などなど・・・。
売れたと見えてカネも入っている。
 「鷹山」はひっくり返った。
「誰も盗まないのか?」
「誰も盗みません。ご隠居様のおかげです」
「へ?」
「佐藤」のセリフが泣かせる。

「潰れかかった米沢藩をあなたは立派に立て直されました。潰れかかった藩を再建しただけでなく、人の心を甦らせたのです。米沢の人間はもちろん、旅で通り過ぎる人間も誰ひとりとして、このザルから品物を盗んで行く人間はおりません。もう棒杭にさえ、嘘をつかないのです。あなたの一番のご改革は、人間をこのように変えたことです。いま、他国の人々は、この棒杭のことを、「棒杭の商い」と呼んでおります。私はこのことを米沢の誇りに思います。そして、あなたを米沢の藩主にお迎えしたことを、心から誇りに思います・・・」

 チョー感動屋の「佐藤」は胸を濡らし、目を濡らしていた。

「私も、遠い九州からこの米沢に養子に来て、本当によかったと思う・・・」

 「鷹山」の胸も熱くしめっていた・・・。
美しい主従を、数本の棒杭がじっと見つめていた。
・・・。

  • 「美しい日本の心」

 著者が描きたかったのは、これっ!
「日本人の心」なんて言うと、化石扱いされるかも・・・。
「心」って言っただけでバカにされる世の中かも・・・。
それっくらい荒んでるかも・・・。
でも、たまには懐かしい「心の洗濯」もいいかもよ。
 現代日本人は「感動」に飢えてるって言う。
安っぽい映画やテレビドラマで「感動」するのもいいけど・・・。
この本1冊読んだ方が数百倍いいと思う。
センセイ方も必読だべな。
相撲で「感動」するのもいいけど・・・。
この本1冊読んだ方が数千倍いい。
 この本読んで何も感じなかったら、センセイ辞めた方がいいべや。
ヤ、是非辞めて欲しい。
一番大事な感性が欠けてるってこったべ。
ちょうどいい踏み絵になるかも・・・。
 「棒杭の商い」はつい最近まで見かけたよなあ・・・。
田舎に行けば無人売店がゴロゴロあった。
最近はこれをごっそり盗んで商売する輩が後を絶たないそうだ。
それどころか、畑に侵入して盗んでく輩までいる。
やっぱ「上杉鷹山」に改革してもらわなきゃダメか?