エストニア・タリンへの雑感

  • 気配り

 狙っていた靴が無かった途端に嫁さんはトイレに行きたいと言う。
わっかりやすい。
仕方なくさっきの土産物屋まで戻った。
さすがにもうツワモノどもは誰もいなかった。
嫁さんも誰にも気兼ねなく、ゆっくりと、思う存分、用を足せる。
 用が済むと何とも中途半端な時間が残っている。
それと用だけ済ませてとっとと出て行くのも何だかねえ・・・。
ってんで店の中をウロウロと見てた。
その内、嫁さんがブレスレットか何かを物色し始めた。
もう購入モードに入ってる。
さては靴のカタキを取ろうって魂胆だべ。
結局、お買い上げ。
ま、存分にトイレ使わせてもらったし・・・。
気配りだ。
 店の外に出るとそろそろツワモノどもが集まりだしていた。
みんな手に手にお買い物の包みを持ってる。
「O田さん」がみんなにコインを見せてる。
「見て、見て!ラッツも全種類2セット揃えたのよ!」
ポーランドズウォティリトアニア・リタスも2セットずつ揃えたという。
いろんな趣味の方がいるもんだと感心してた。
「コイン欲しさに買いまくってチョコレートだらけになっちゃったわ」
 でも、確かにラトビア・ラッツはまったく見ていない。
遂に両替せず仕舞いである。
「2度とお目にかかれないでしょうから、ちょっと見せて下さい」
ネタ振りとしてはフツーだったと思うんだけど・・・。
何故か「O田さん」ハンパなコインをくれると言う。
何で?気配りかな?
「え、いいの?有り難うございます」
って有難く頂いた。

  • 昼メシ

 再集合の後に昼メシ。
徒歩で市内のレストランに。
まあ、まずはビール。
ここんところ天気がいいのでビールが美味い。
ここでもキョーコさんが交渉してくれて、ユーロ・ドルの支払いOK。
やる時ゃやるじゃん。
0.5Lで$3=約330円だった。

  1. 【ジャガイモのスープ】  具沢山でご当地ならではのスプーンの立つスープ。美味かった。ホシ2つ半。
  2. 【マスノソテー・サワーソース、ポテト・インゲン添え】  美味いんだけどソ−スがちょっとシツコイ。ホシ2つ。
  3. 【ハチミツケーキ】  名前からも想像がつく。甘っ! ホシ1つ。

 今日の同席者は画家の「K林さん夫妻」
もう大半のヒトと何の違和感も無く話せるようになった。
ご主人に絵の話を振ってみた。
 「大分、作品が増えましたでしょ?」
「いやあ、今ちょっと感性が疲れてきました」
それはわかる。
感動もそんなにいつまでも持続出来ない。
休養は必要である。
疲れた状態では満足のゆく作品は望めないべな。
 でも、考えてみたらこのご夫婦はカメラを持って無かった気がする。
景色は眼に焼き付ける。
感動は一発勝負。
作品はアタマに残ったイメージだけで完成させる。
これがモットーだと仰っていた。
なるへ・・・。
 帰国したらホームページかblogを始めるようおススメした。
せっかくの作品を紹介したらいいんじゃないか、と。
また、何か違う楽しみが見つかるかも・・・。
経験談である。

  • 回想

 旅も最終コーナーを回った。
そろそろ皆さん回想モードもチラホラ。
ここが良かった、あそこが良かったの話題に花が咲く。
 突然、嫁さんが「K林夫人」に訊いた。
「『アウシュビッツ』をご覧になってどう思われました?」
おっ!直球勝負である。
何日か前に夜中の反省会でそんな話をしたばっかり。
「ヒトさまと『アウシュビッツ』の感想を話題にするのは難しいよね」
って言ってたのに・・・。
 でも、「K林夫人」は直球を返球してた。
「我々が出来る事は何かって思いました。日々、流されちゃいけないって・・・」
へえ〜っと思った。
ちょっと一家言あるかなっとは思ってたけど、さすがだなあ・・・。
 後で嫁さんに訊いてみた。
「良く、『アウシュビッツ』ネタを振る気になったね」
「あの奥さんには訊いてみたかったのよ。誰にでも訊けることじゃないもの・・・」
なるへ・・・。

  • 国境

 昼メシを終えてバスに乗り込む。
何故かリガ市内の地図が配られた。
良くわかんない。
何で観光が終わった後からなんだろう・・・。
 後ろの席で「O山田じいちゃん」がつぶやく。
「やはり地ぃ図ってえもんはぁ、後から配るもんですよねえ。記念になりますから・・・」
「ぷっ!」
嫁さんと2人で同時に吹き出しちゃった。
やっぱ「O山田じいちゃん」イケてる!
 この後、国境まで約100km。
国境からエストニア・タリンまで約200km。
ざっと6時間コースである。
ところが工事中の箇所が多くって道路状況は良くない。
容易に進まず、国境まで2時間半もかかった。
ず〜っと全身マッサージ状態である。
ようやく国境を抜けて、トイレと両替。

  • 両替

 両替についてはキョーコさんから念入りに説明があった。
タリンは2泊してフリータイムもあるので少しは現金が必要だ。
でも、隣のホテルでも街中でも両替は可能。
とりあえず1人$10か10ユーロくらい両替しとけばいいのでは・・・。
ってな事だった。
 ついつい従順に20ユーロを両替した。
20ユーロ=308EEK(クローネ)だった。
成田で両替した1ユーロは約145円だった。
ってえ事は1クローネ=9.4円になる。
 そこで気が付いた。
何で円を両替しなかったんだべ?
バッカだんべなあ・・・。
円のレート表を見たら1クローネ=8.4円くらいだった。
大した金額じゃないんだけどちょっと悔しい。

  • 雑学

 道中は長い。
キョーコさんがいろいろ雑学を話してくれた。
今回はちゃんと聴き取れる内容だった。
でも、何か音の響きが変だなあ・・・と思ってた。
どうやら原因は後ろの席の「O山田じいちゃん」
手元のボリュームを完全に絞っちゃってたらしい。
 相変わらず、つぶやきが可笑しい。
「キャンキャンして、う〜るさいんでぇすよねえ・・・」
「しゃべり方が気ぃもち悪いんですよねえ・・・」
「あ〜と、もう少しの辛抱ですからぁ・・・」
さすがに「O山田じいちゃん」は決定的にダメだったようだ。
ま、気持ちはわからないでもない。
ハンディがあるヒトは特にそうだんべなあ・・・。
 エストニアの雑学を軽く・・・。
タリンはかなりフィンランドに近い。
フィンランドのテレビを見て、言葉も近いようだ。
ハンガリーエストニアフィンランドは同系の言語なんだとか・・・。
国土の半分は森林で主産業も林業・農業。
フィンランドが近い所為か、木造建築も結構ある。
道沿いの田舎の家は何となく北海道の田舎の家を思い出させる。
 平均月収は250〜300ユーロとか。
え〜〜っ?
3〜4万円〜〜っ?
これも公称ってヤツだんべ。
幾ら物価が安くてもそれじゃ喰えないべや。
 嫁さん情報によるとバルト3国は美人の宝庫。
ホンットに若い女性はスタイルがいいし、美人が多い。
欧米からスカウトが絶えないそうだ。
誰か冗談半分で言ってた。
「資源が無いから『美人』を輸出したらいいのに・・・」
別な誰かが突っ込む。
「それって危ない発言じゃない?」
でも、うなづけるなあ・・・。

  • 経験談

 道中が長いのでキョーコさん自身の経験談も披露してくれた。
自分の言葉なので面白かった。
今まで行った先での注意事項なんかも聴けた。
その国のベストシーズンなど参考になる話も多かった。
ひょっとして一番いい話だったかも・・・。
 旅行社は結構季節はずれでも平気で格安ツアーを組む。
この「H急交通」さんも良くやるので注意が必要。
オフシーズンに行っても何もいいこたあありまへん。
12月にエーゲ海クルーズなんか行ってもどーしょーもない。
ちゃんといいシーズンをチェックすべきである。
オススメはルーマニアブルガリアの「バラの祭典」
6月上旬が最高とか・・・。
 いろんな話を聴いてる内に気づいた。
キョーコさんはかなりベテラン。
日本人が初めて海外旅行に行き始めた頃の話も知ってる。
先輩から聞いたとは言ってたけど先輩の歳は近そうだ。
$1が360円だった頃の話なんか妙にリアリティがある。
ノボリを立ててきちんと団体行動するんですよ〜〜っ。
ヘタすると「整列っ!点呼開始っ!」とか言いそうだもん・・・。
明らかにいにしえの旅行パターンを引きずってる気がする。
昔の団体旅行パターンの呪縛かな・・・。
 昔の添乗員のエピソードの紹介もあった。
ある時、日本食が恋しくなった客から部屋に招待された。
「ソーメンゆでたから食べにおいでよ」
部屋に行くと洗面所に通されたとか。
そこにはビデの中で「流しソーメン」が展開されてた・・・。
何となくアナクロな笑い話・・・。

  • 展望レストラン

 レストランが見つからない。
バスはタリンの郊外をウロウロしてる。
今日の晩メシは展望レストランで最後の名物料理らしい。
バスの運ちゃんも最後の最後まで苦戦。
でかい図体で他のクルマを全部止めてUターンとかしてる。
何でもありである。
 やっと見つけたレストランはテレビ塔の上だった。
「ピリタのテレビ塔」という。
高さはざっと200mはあろうか?
見た目は円盤を串で刺したような簡単な造りだ。
ふあ〜ん・・・。
駐車場には乗用車がパラパラ・・・。
決して客は多くなさそうだ。
 エレベーターに乗ると表示はすべてキリル文字だった。
ソ連時代に造られたモノらしい。
こんな表示も替えて無いって事は財政的に豊かじゃ無さそうだ。
もしくはインテリアのつもりなのか・・・?
 確かに眺めはいい。
バルト海もタリン市内も一望出来る。
エレベーターには一度に全員乗れないので後半組は後から到着。
エレベーターを降りると「わあ〜っ、キレイ〜っ」
って窓の外を覗きたくなるのが人情。
 そこへいつもの金切り声が館内に響き渡る。
「さあ、行きますよ〜っ!」
「済みませ〜ん。30分も遅れてるので、早くしてくださ〜いっ!」
あずましくな〜い。
誰かがつぶやく。
「時間が遅れたのは客の所為なの?」
「景色もゆっくり見られないなら、こんな所まで何しに来たのよ・・・」
同感である。

  • 晩メシ

 座席は団体さん用に大勢座れるようにセットされていた。
余計なお世話なんだけど・・・。
何となく座ると似たようなメンツになってる。
「A田さん夫妻」「H竹さん夫妻」「Hヤシさん」「Sガピョン」である。
 まあ、何はともあれビール。
タリンは結構フィンランドビールが出回ってる。
0.5Lで40EEK(クローネ)=約360円か。
きっと庶民の物価水準とはかけ離れてるんだべなあ・・・。
カウンター内をちらっと見たらビンビールをグラスに注いでた・・・。
何でもいいや。
素晴らしい景色に全員で乾杯!

  1. コールスローもどきサラダ】  いつもの・・・。ホシ1つ半。
  2. 【ジレクテイニス、ポテト添え】  牛薄切り焼肉。何だか良くわかんない味。ホシ1つ。
  3. 【ロールケーキ】  ロールケーキみたいだった。甘っ!。ホシ1つ。

 誰かがキョーコさんに訊いた。
「日程表に『ジレクテイニス』って書いてあったけど、これ何の肉ですか?」
キョーコさん、「わかりません!」
「・・・」
話が終わっちゃうべや・・・。
 帰国する時に配られた手書きの「旅の記録」にはちゃんと書いてあった。

夕食は牛肉の薄切り(「ジレクテイニス」はロシア語の料理名)

後で調べたんだべな。
実は真面目。
ちゃんと仕事はしてるんだよなあ・・・。
リアクションや表現でえりゃあ損してる気がする。

  • メンツ

 周りの席を見渡すと大体固定メンバーだ。
「H場さん」「I塚さん」「Sコグチさん」「O田さん」「ハマちゃん」
が飲んべ集団のメンツ。
ここに「Sガピョンが出たり入ったり・・・。
 「I川さん」筆頭のおばはんトリオは「O山田じいちゃん」とセットが多い。
国際ボランティアなんだそうだ。
但し、瞬間芸みたいだけど・・・。
もう1人「O田さん」もよく国際ボランティアをかって出る。
明日のフリータイムは2人で観光する約束になってるらしい。
こっちは瞬間芸じゃ出来ないべなあ・・・。
アタマが下がる。
 何となく夫婦モノは夫婦モノ同士が多くなっちゃう。
それも何となく似たような匂いを嗅ぎ取ってく。
我々は圧倒的に「A田さん夫妻」と一緒の場面が多かった。
いずれにしても何となく客同士は和気あいあいになって来た。
10日も一緒にいたら共通認識が出来る。
しかも今回はかなりわかり易い共通認識だったかも・・・。
 遂に最後まで一回も同席しなかったご夫婦がいた。
「K峰さん夫妻」である。
ご主人がいつもマドロスパイプをくわえてる。
かなりユニークな印象である。
どこの席に座っててもご主人は寡黙に遠くを見てる。
反対に奥さんが実に座持ちがいい。
うまく出来てるモンである。

  • 「タリンク」

 そんなこんなで夕方、タリン市内に到着。
さすがはバルト3国の窓口、立派な大都会である。
今夜の宿泊はホテル「タリンク」
去年オープンしたばかりだという街の真中のホテルだ。
造りも都会的でビジネス客も多そうである。
 ホテルの向かいは大きなショッピングセンター。
地下にはスーパーマーケットもある。
嫁さんの眼が輝いてる。
「これだけ大ききゃあの靴があるかも・・・」っとか言ってる。
「A田婦人」がカサカサと寄ってきた。
「ここにあるかもね。お互いに情報交換しようね」
以心伝心らしい。
 ロビーも広くてちゃんとピアノバーもある。
ツアー最後の晩はホテルのバーで反省会と決まってる。
ちゃんとシテュエイションは整ってる。
さあ、最後の観光を楽しまなくっちゃ!

  • 運転手

 ポーランドからお世話になったバスはここでお別れ。
運ちゃんもやっと開放されてクニに帰れる。
勤務先の手違いかも知れないけど、英語しか話さない客だった。
良くわかんないけどギャンギャンやられ続けた。
さぞ、大変だったべなあ・・・。
 お別れの後味はあんまり良くなかった。
つまんない事なんだけどなあ・・・。
よくあるパターンで、このバスもミネラルウォーターを積んでた。
車内の冷蔵庫で冷やしておいて客に売る。
運ちゃんのアルバイトみたいなモンだと思う。
スーパーよりは高いけど、手軽で便利だ。
 ポーランドを出る時に運ちゃん、せっせと仕入れて来た。
値段は運ちゃんとの交渉次第みたいだ。
キョーコさんから500mlボトル1本1zl(約40円)で折衝すると聞いてた。
でも、交渉は成立してなかったようだ。
 どっかの休憩の時に嫁さんが「3本くださいな」と3zlを出した。
「ノーノー、1本2zlね」と言われたそうだ。
じゃ仕方が無いのでとりあえず1本だけ買おうとした。
したら、3zlでいいとボトルを2本くれたそうだ。
良くわかんない・・・。
要は気分次第か?

  • 再交渉

 旅も進んで通貨もいろいろ混ざって来た。
キョーコさんはドルやユーロでの再交渉をしてた。
車内で「$1で2本にしなさいよ!」とやってるのが聞こえた。
運ちゃん、ウンと言わない。
やがて諦めて案内があった。
「交渉したんですが、1本$1か1ユーロと言ってます」
 我が家では嫁さんが「水飲み鳥」のように良く水を飲む。
常に2〜3Lは持ってないと不安である。
値段の問題じゃなく、死活問題である。
昨日、またまた嫁さんが運ちゃんとこに水を買いに行った。
そして$2を渡したら何と4本くれた。
横で見ていたキョーコさんが引きつった。
「それ、おかしいですよ。彼は計算を間違ってるんだと思いますよ」
「そんな事ないでしょ。ラッキーでいいでしょ?」
「いや、それはまずいと思いますよ。運転手さん可哀相ですよ」
ツワモノどもは耳ざとく聴いてる。
その後、我も我もと水が売れたのは言うまでも無い。
 そんな事はその場だけで忘れていた。
「このバスともこのホテルでお別れです」
ホテルが近づくとキョーコさんが又、水の事を引っ張り出した。
「彼はきっと計算が弱いんだと思います。小銭が余ってたら気持ちだけでも・・・」
それこそみんな、聞いちゃいない。
とっととバスを降りる。
 運ちゃんに何の罪も無い。
「お疲れさま」と声を掛けてあげたかったけど、そんなムードじゃない。
当事者としては極めて愉快じゃない。
何だか我々が極悪人みたいだべや。
言ってる本人に悪意が無いから余計に始末が悪い。
 誰かがつぶやく。
「運ちゃんだって売れ残っても困るから安くしたんだよ・・・」
「添乗員さんだって2本で$1にしろって交渉したんじゃないの・・・」
「運ちゃんもギャンギャン言われて、ふて腐れたんじゃないの?」
これは逆に我々に気遣ってのつぶやきだんべ。
後から思えば、今回のツアーのすべてを象徴するような出来事だった。
 明日はいよいよ最後、「タリン市内観光」だ。