「十字架の丘」〜国境への雑感

  • 優雅な朝メシ

 気持のいい朝だ。
レストランはゆったりとした造りで窓が全面ガラス張り。
窓の外は森と泉で朝もやがかかっている。
「ブルーシャトー」のフルートが聞こえて来そうな景色だ。
 あんまり宿泊客は多く無さそうだ。
広いフロアを見渡しても異国人がパラパラと見えるくらい。
後は我らツワモノ集団しかいない。
ご一行様準貸切状態で優雅な朝メシである。
 今朝は嫁さんが公文の「H竹さん夫妻」と同席しようという。
朝メシからの同席は珍しい。
だいぶお互いに慣れてきたってこってある。
このご夫婦も面白いので話題に事欠かない。
58歳から旅行を始めて12年、古希を迎えてますます元気一杯!
目標にしたいご夫婦だ。
 昨日、リトアニア語の挨拶のイントネーションをマスターした。
もう今朝しか使う機会がない。
瞬間芸の国際交流である。
レストラン入り口で「ラバス・リタス!」(おはよう!)
出る時に「アチュウ!」(ありがとう!)
この2つだけ。
 今朝は高級ムードで美人スタッフがコーヒーを注ぎに来てくれた。
すかさず「アチュウ!」
美人スタッフはニコッと笑って「ナンジャモンジャ▲□×○・・・」
何言ってんのかわかんないので笑ってごまかす・・・。
 優雅な朝メシを終えてゆったり立ち上がった。
出口でムツゴロウ似のご主人が美人スタッフに言ってる。
「アチュウ!」「アチュウ!」
オチャメである。

  • シャウレイ

 今日の行程はまず、シャウレイという町まで移動。
220kmあるっていうからざっと3時間。
そこで昼メシの後「十字架の丘」を観光。
次いで国境を越えてラトビアに入国。
「ルンダーレ宮殿」観光の後、ラトビアの首都リガに入る。
 移動は長いけど、まあゆったりした行程である。
トイレの心配さえ無きゃのんびりビールでも飲みながら景色を見てりゃいい。
嫁さんがトンでもない!と言ってる。
ますます警戒心旺盛である。
 今日もキョーコさんは運転手とのコミュニケーションに苦労してる。
相変らず2時間ごとのトイレ休憩の意味が通じないらしい。
またまたテンぱってくる。
「ウェイッ!ウェイッ!ウェイッ!ウェイッ!」
「アイムナッシュアー・・・」
別に英語は得意じゃないけど、何か語調がきつ過ぎるような気がするなあ・・・。
 嫁さんの警戒心は正解だった。
当初、予定していたドライブインみたいなところが休みだった。
キョーコさん、仕方なくどっかのガソリンスタンドに止めるように話した。
でも、バスは幾つもガソリンスタンドを素通りして行く。
だんだん車内でおばはん達がざわざわし始めた。
スタンドを見掛けるたびに「あ〜〜っ」とか「え〜〜っ」とか・・・。
「こういう事もあろうかと・・・ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・」
嫁さん、今日は余裕である。

  • 市場

 昼近くなってようやくガソリンスタンドで止めることに成功した。
如何にコミュニケ−ションと段取りが大切か・・・。
ま、キョーコさんにも同情の余地はある。
 シャウレイの町で観光用じゃない市場を覗いた。
時間調整を兼ねた計らいらしい。
こういう所は面白い。
生活の臭いがして庶民の生活が垣間見える。
ご当地、今が果実やキノコの収穫が盛りらしい。
市場には山のように食糧が積まれていた。
 びっくりしたのは値段の安さ。
スグリやブルーベリーなんかが1kgで1LTL=約40円だ。
卵も山のように積まれていた。
一山で3LTL弱=約110円くらい。
後で写真で一山を数えてみたら50個あった。
10個で22円ってことになる・・・。
 バスに戻ると画家の「K林さん」が黒スグリを持ってた。
1LTLで買ってきたという。
「みなさん、味見してくださ〜い」っと廻してしる。
早速、味見させて頂いた。
熟れ熟れでめっちゃ美味かった。
でも、多分900gっくらい残った分、どーすんだべ?

  • 昼メシ

 今日の昼も名物料理だった。
ご当地は夏に「赤カブの冷製スープ」を良く喰うと聞いていた。
コイツである。
いざ、出て来たコイツにはびっくりさせられた。
スープの色がショッキング・ピンクだった。
日本人的には味云々以前に、見てくれでダメだんべな。
またまた名物料理は惨敗。
 もちろん、まずはビール。
銘柄は忘れたけど0.5Lで4.5LTL=約180円。
嫁さんは警戒心解けず0.3Lで3LTL=約120円。

  1. 【赤カブの冷製スープ】  見てくれで損してる。ホントは味はまずまず。ホシ1つ。
  2. 【ゆでジャガイモ】  まさに素朴な味。芸は無いけどビールのつまみとしては文句なし。ホシ2つ半。
  3. 【ヒラメのソテー・サワーソース、ポテト添え】  またジャガイモって声が聞こえたけど美味かった。ホシ2つ。
  4. 【アイスクリーム】  シンプルアイスで良かった。ホシ2つ。

 初めて屋外でのメシだった。
天気はピーカンだし、日陰は気持いい風が通る。
今回の同席者は今朝に続いて「H竹さん夫妻」と「A田さん夫妻」
だんだん同席の傾向が固まって来ちゃってる。
 「A田さん」のご主人は夕べのウサが晴れ切ってなかったらしい。
「いやあ〜参ったよ。2人ともパニックになっちゃてさ・・・」
奥様がヒジで突っついてる。
「でも、何にしても無事で良かったですよねえ・・・」
張本人は澄ましたモンである。
「私、パスポート忘れたの2回目なの・・・」
愛されるキャラである。

 リトアニア最後の観光は何とも奇妙な場所だった。
ご当地でもナゾの場所らしい。
広大な野ッ原に忽然と夥しい十字架の固まりが現われる。
小さな丘に十字架が団体で寄り添ってるみたいな・・・。
大きなキリスト像からロザリオまで大小さまざま。
しかも十字架の数はどんどん増えてるらしい。
観ていても何とも言えない気持になる。
みんな何を思って観てるんだんべ。
 起源は定かじゃないけど、村の記録によると1831年らしい。
対ロシアへの蜂起で多くの犠牲者が出た。
それを悼んで誰とも無く十字架を捧げるようになったとか。
何故、この場所なのかはよくわかんないらしい。
 その後、ソ連時代には徹底的に排除されたそうだ。
KGBがブルドーザーで丘を壊してしまったとか。
でも、またいつの間にか出来ていたそうだ。
 そこを観光客が訪れる。
広場には露天が並んでロザリオやイコンを売ってる。
ここで買って丘に捧げてくヒトもいるらしい。
何だか不思議な構図である。
 我々はここでリトアニアの「リタス」を使い切らなきゃなんない。
何か買わなきゃいけない状態になってる。
ホントは古いイコンなんかいいんだけど・・・。
イコンは昔から興味がある。
絵的にはちょっといいなあ・・・って思う。
でも飾るところがない。
結局、エンジェルの風鈴なんか買って来た。
何のこっちゃ?

  • 国境

 国境はえらい事になっていた。
出入国用のコンピュータがダウンしたとか。
国境ゲートのず〜っと手前からクルマが延々と並んでる。
ご当地は信じらんない事があり得るんだ。
 突然、何を思ったか大型トラックが対向車線をばく進してった。
ずら〜〜っと並んでる車列に我慢が出来なくなったのか・・・。
「あいつ、何考えてんだろ?」
みんな口々に非難する。
 果たして、対向車が来た。
当然だけど怒ってる。
大型トラックはスゴスゴとバックして来た。
バスの左横を通り過ぎた時にトラックの窓越しに子どもの姿が見えた。
「Sガピョン」が叫んだ。
「あれっ、まだ子どもだよ!あんな子どもが運転してるんだ!」
すかさず誰かがヒトコト。
「あれは助手席だよ」
一同、大爆笑である。
気持はわかる。
ついつい左ハンドルって事を忘れちゃうんだよなあ・・・。
やっぱ一家に一台だ。