珍しくもない本の雑感82(2)
【青年】
- 不条理
お約束の不条理もふんだんにある。
書生の主人公も鬱々とする場面も沢山ある。
揶揄的、批判的、戯画化的な表現も多い。
ライバル「夏目漱石」も、「拊石」という名で出てくる。
自分自身も「毛利鴎村」とかいう名前だった。
「徳富蘆花」は「大石路花」として登場。
路花の立場から見れば、ここには不平がなくてはならない。この不平は赫(かく)とした赤い怒りになって現われるか、そうでないなら、緑青(ろくしょう)のような皮肉になって現われなければならない。
何のこっちゃ・・・?
何か為事をしようと思っている人の手には金がない。金のある人は何も出来ない。富人が金を得れば、悪業が増長する。貧人が金を得れば堕落の梯(はしご)を降(くだ)って行く。金が集まって資本になると、個人を禍(わざわい)するものが一変して人類を禍するものになる。
これは「Huymans」とかの引用らしいけど、いつものやり切れなさが顔を出す。
この作者は厭世主義だとか・・・。
ひょっとして「鴎外」も・・・?
- 世代
多分、これも「鴎外」の作品に共通なんだべな。
解説にこう書かれてた。
この小説は丁寧に、時間をかけてゆっくり読まれることを要求している。
続けていわく。
せわしない眼つきで自分が持っている言葉の畑の中を見廻して、急いでそこらのありあう言葉を次ぎつぎと摑(つか)み取って作られるという気味のある日本の現代作家の書いた小説を読むようにして読んだのでは、この作品の言わんとするところも、その味や香も、諷刺(ふうし)や反語も理解されまい。
なかなか面白い。
「青年」が書かれたのが明治43年(1910年)。
ほぼ100年前。
この解説が書かれたのが昭和43年(1965年)。
ちょうど40年前である。
”ったく、最近の作家は・・・”
いつの世も同じか・・・。
- 自然体
「鴎外」は軍医だったそうな。
その所為か、カラダに良さそうな表現が目につく。
とにかく一応これで終とする。
これが「青年」の擱筆(かくひつ)。
読者は無用の憶測をせぬが好い。
これが「雁」の擱筆(かくひつ)。
自然体なんだべな・・・。
ストレスが無さそうで、ちょっと羨ましかったりする・・・。