珍しくもない本の雑感79

 【もし僕らのことばがウィスキーであったなら】

  • 59歳

 考えてみれば、来年還暦じゃん。
フツーであれば、孫抱いてるじ〜ちゃんである。
ま、このヒトには似合わないけど・・・。
村上春樹
今年、59歳。
  この本も、もう9年前に出版されてた。

「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」

50歳の時の作品か・・・。
パブをはしごして、飲んで飲んで、飲みまくって・・・。
 カバーの裏に書いてあった。

芳醇かつ静謐なエッセイ

ウィスキーも哲学の世界らしい。
それにしても、カッコ良すぎじゃない・・・?

  • ウィスキー

 舞台はスコットランドと、アイルランド
目的はウィスキー。

まず、スコットランドアイラ島に行って、その名高いシングル・モルト・ウィスキーを心ゆくまで賞味し、それからアイルランドに行って、あちこちの町や村をまわりながらアイリッシュ・ウィスキーを楽しもうと。

 写真が豊富。
それも、妙にカッキい〜。
如何にもってな色使いの建物や、クルマ・・・。
海と、牧場と、ドでかい牛んべ・・・。
渋〜いマホガニーっぽい調度品のパブと、ベスト姿のオヤジ・・・。
憎ったらしいくらいカッキい〜。
 ところどころに著者も登場する。
これがとってもいい。
ま、早い話が絵にならない。
急に観光旅行の記念写真っぽくなってホッとさせてくれる。

  • ことば

 著者いわく。

「ウィスキーの匂いのする小さな旅の本」を作ってみることにした。

そうな・・・。
 旅先で味わったウィスキーの風味、アフター・テイスト。
そこで知り合った人々の印象的な姿。
これを何とかうまく文章のかたちに移し変えてみよう。
ってんで、結構苦労したそうな。

もし僕らのことばがウィスキーであったなら、もちろん、これほど苦労することもなかったはずだ。僕は黙ってグラスを差し出し、あなたはそれを受け取って静かに喉に送り込む、それだけですんだはずだ。

 残念ながら、僕らのことばはことばだった・・・。

読んだあとで(もし仮にあなたが一滴もアルコールが飲めなかったとしても)、「ああ、そうだな、1人でどこか遠くに行って、その土地のおいしいウィスキーを飲んでみたいな」という気持ちになっていただけたとしたら、筆者としてはすごく嬉しい。

そうな・・・。
さて・・・。

  • 成功

 なった!
ウィスキーはともかく、パブには行きたくなった。
ギネスやエールビールが飲みたくなった。
イギリスツアーで飲みまくった事を思い出した。
とりあえず、著者の目論みは成功だんべ。
 あらためて「村上春樹」ってのは健康なんだなって思う。
このヒトの「旅の本」は極めて健康だもん。
美味いモン喰って、美味い酒を飲んで・・・。
そして、どこかでその酒を飲んだりすると、その情景を思い出す・・・。
そこにあった空気と、人々の顔がよみがえる。
 「あとがきにかえて」ってのがあった。

旅行というのはいいものだなと、そういうときにあらためて思う。人の心の中にしか残らないもの、だからこそ何よりも貴重なものを、旅は僕らに与えてくれる。そのときには気づかなくても、あとでそれと知ることになるものを。もしそうでなかったら。いったい誰が旅行なんかするだろう?

まったくだ・・・。