グルメのこと24(3)

  • 珍客

 隣の医者っぽい家族連れは満足そうに帰って行った。
っと、ほどなく怪しげなペアが入って来た。
例の退廃的な雰囲気が思いっ切り板についてる。
男性は間違いなくそのスジっぽい。
女性はほぼ間違いなく経営者っぽい。
一瞬、ヤ〜な予感が・・・。
 っと思う間もなく、2人揃ってタバコを取り出した。
ものすごい煙が・・・。

”冗談だろっ?1人1万円以上も払って、仏メシ喰いに来てるんだぜっ!仏メシだぜっ!”

無性に腹が立ってきた。
嫁さんはこれ見よがしにナプキンで口を押さえてる。
最悪だべやっ!
 そこにメインディッシュ登場・・・。

【鶏胸肉のソテーパスタ添え】

んなんだけど、味なんかわかる訳がないべやっ!

  • 捨てゼリフ

 隣の女性がやおら立ち上がった。
まずは、奥さんに向かって悪態をつき始めた。

「何だか隣でタバコを嫌がってて、気分が悪いわ。帰るから料理はキャンセルして頂戴っ!」

次は、我々の方を見てハスに構えた。

「ここは禁煙でも何でもないのよっ!気分が悪いっ!」

 ヒヤヒヤもんだべさ。
酔いがいっぺんに醒めた。
そのスジっぽい男性はモノホンだったんだべな・・・。
黙って帰って行ったんで良かったけど・・・。
一歩間違えば・・・。
 嫁さんが小声でつぶやく。

「やったあ〜っ!これで空気がキレイになるわ・・・」

そりゃそーだけどさ・・・。

  • 捨てガネ

 やっぱ、ムネニクは味がわかんなかった・・・。
奥さんがしきりに謝ってるのを聞きながら、味はわかんないよなあ・・・。
結局、半分は残しちゃった・・・。
気分は最悪だべさ。
やれやれ・・・。

シフォンケーキのデザート】

 コーヒーとデザートを喰ってるところへ、シェフも出て来た。
店としてもつらいところである。

「僕もタバコは嫌いで、店内禁煙も考えたんですが、仲間から猛反対されまして・・・。この街でそんな事したら間違いなく潰れるって言われました」

 ま、そーだべな・・・。
奥さんが懸命にフォローしてる。

「今度から灰皿を求められたら、デザートまで我慢して下さいって言う事にしましょうか?」

そりゃ、とっても納得するとは思えんなあ・・・。
一応、助け舟を・・・。

「そんな事言ったら、お客さん半減しちゃうんじゃないの?」

シェフもつらいとこだんべな・・・。

「東京だったら、そんな事常識なんですけどねえ・・・。この街で、本当のマナーを求めたらお客さんは1割以下に減っちゃいますね・・・」

 そこまで、我々が求める権利はない。
お店が繁盛するようになったが故の悩みだもん・・・。

”でも、もう一度2万4千円も捨てる気にはならんなあ・・・。”