珍しくもない本の雑感73(5)

  【美しい老年のために】

  • 趣味

 「スタンダール論」ってえのがあるらしい。
「アラン」ってえヒトが書いてるらしい。
そん中の一節。

趣味を養うにはたった1つの手段しかない。即ちどんな粗雑なものであろうと、自己の趣味に勇敢に従うこと、そして自ら感じることを正確に自己に告白すること。あらゆる教養はだから虚栄心と対立するはずだ。

 著者は、20代にこの言葉に出会ったそうな。
以来、これを「金科玉条」とした。
だから自分の感覚しか信じない。
絵であれ、喰いモンであれ自分の感覚だけを信ずるそうな。
 これは、出来そうで出来ない・・・。
あっという間に刷り込まれちゃう。
パロティングも多い。
余程、自分を信じてないと出来ないべな・・・。

  • ”我がまま”

 この趣味の話を読んで思った。
どーも”我がまま”と紙一重ってえ気がする。
確かに趣味は、そのヒトの好み。
いいも悪いも、そのヒトが好きか嫌いかで構わない。
 喰いモンも確かに好み。
そのヒトの感覚でしか評価されない。

「解説付きのメシで、美味かったためしがない」

っとか書いてあったけど、そーだべか?
 我が家なんか嬉しいけどねえ・・・。
食材や、調味料の話は聞いてても面白い。
別に美味いか、不味いかなんて聞いてる訳じゃないし・・・。
使われてる食材や調味料、全部わかるから解説不要ってことだべか・・・?

  • 食い意地

 ご本人は、自ら食い意地が張ってるという。
一度、何かに凝りだすと止まらないらしい。
一時「天丼」に凝ったそうな。
二流グルメの本に載ってる店は網羅したらしい。
 いろいろ収穫もあったとか。
まず、この手の情報はかなりいい加減だってこと。
次に、うまい店とそうじゃない店の区別がつくようになったこと。
うまい店は、活気とリズムがあるとか・・・。
 自信持って言えるそうな。

「日本中で一番うまい『天丼』は、浜松町駅前の『食いもの横丁』にあるFという小さな店だ」

よっしゃ・・・。

 著者は墓なぞ要らぬと考えていた。
子どももいないので、供養してくれる者がないし・・・。
っと思っていたら70歳を過ぎて、モノのはずみで墓を買っちゃったそうな。
信州の「浄運寺」という700年を超す古刹だという。
 いざ買っちゃったら、すぐ墓石も用意した。
墓誌銘も作った。

ここに眠るは
中野 孝次
中野  秀
その愛せし者たち

”愛せし者たち”はワンコたちだ。
気持ちは良くわかるなあ・・・。

  • 葬式

 著者は、葬式もゴメンだと言ってる。
葬式なし、墓なし、散骨希望。
とにかく、商業化されたカタチだけの供養なんかいらん。
ま、気持ちはわかる。
 友人の葬式とかに行ってうんざりしたらしい。

へんな節をつけて儀式を進め、知りもせぬ故人の徳をたたえ、最後には白い鳩を飛ばして「いま故人の魂が飛んでゆきました」などと葬儀屋が言うのを聞くと、張りとばしてやりたくなる。

思わず吹いてしまった。
いかにもこのヒトらしい・・・。
 予想以上に面白い本だった。
考えさせられる事も多くあった。
もう、知命も過ぎた。
いつ死んでもおかしかないしねえ・・・。
 そこで、嫁さんが突っ込む。

「んで、何をして生きてくの・・・?」

ぎくっ!