珍しくもない本の雑感72(5)

 【犬のいる暮し】

  • 急逝

 2代目「マホ」は短命だった。
6歳と半年で急逝してしまったそうな。
何の前触れも無かったらしい。
それまでやんちゃで、健康そのものだった。
 ある晩、突然吐いて苦しみだしたとか・・・。
翌日になると血尿が出た。
医者に連れて行くと、診断は「急性腎不全」
かなりシビアな状態に陥ってたそうな。
 結局、その翌日には死んじゃった。
飼い主が何も出来ない。
あれよあれよってな間に死んじゃったらしい。
想像するだけでゾッとするべや・・・。

  • 「ハンナ」

 この時も、著者は思ったらしい。

”もう、生き物を飼うのはヤだっ!”

でも、一瞬だったらしい。
もう中野家は完全にビョーキだった。
「犬なしの暮らしは出来ないっ症」だべさ。
 周りからも、そんな気持ちを見透かされてた。
「供養の為に、早く次のワンコを飼ったほうがいいよ」
「トシだからメスがいいよ」
「『ゴールデン・レトリバー』が優しくっていいよ」
いろんな声が届いたという。
 でも、著者は筋金入りの頑固ジジイ。
又、「柴犬」を飼った。
名前は「ハンナ」
ドイツ語で、日本語で言えば「花子」だとか・・・。

  • 老い

 「ハンナ」が来た時に、著者は72歳。
初代の「ハラス」を飼った時に思ったそうな。
”こいつよりは絶対長生きしなきゃ・・・。”
ちょっと気持ちはわかる。
 でも、ある時気づいた。
そんな考え方は間違ってるべや。

人にあるのは、今生きてここに在るという時だけで、未来とか過去という時があるわけではない。
人にできるのは、生きてここに在るという時を力一杯押してゆくことだけだ。

先にある”死”なんか考えたってしょうがない。
生きているあいだだけが人生だ。
こう考えると、気持ちが非常に楽になったとか。
頑固ジジイも変り身は早い。

  • 「ナナ」

 「ハンナ」は2歳8ヶ月で3匹の仔犬を産んだという。
しばらくは母と3匹の仔犬と一緒に暮らしたそうな。
生活が完全にワンコ中心だったらしい。
そりゃ、たまらんべな。
 仔犬の可愛らしさは筆舌に尽くし難い。
いくら頑固ジジイでも「可愛い!」っと言わざるを得ないべ。
仕事そっちのけで、仔犬の世話をした。
うち、1匹が残った。
4代目の誕生である。
「ナナ」と名づけられた。
 74歳にして、親子ワンコと暮らすことになった。
ワンコもニンゲンも同じだと思ったそうな。
生きている今を精一杯生きようとする。

「今ココニ」

のココロだそうな。

 「徒然草」からの引用。

―所願(ショガン)を成(ジョウ)じて後、暇(イトマ)ありて道に向はんとせば、所願尽くべからず。如幻(ニョゲン)の生(ショウ)の中(ウチ)に、何事をかなさん。すべて、所願皆妄想なり。所願心に来たらば、妄心迷乱(モウシンメイラン)すと知りて、一事をもなすべからず。直(ジキ)に万事を放下(ホウゲ)して道に向ふ時、障りなく、所作なくて、心身永く静かなり。

 願う事を全部やり遂げたい。
その後、ヒマがあったら仏道にココロを・・・。
なあ〜んて考えてるヒトに、願い事が尽きる事はない。
 ただちに全てを放擲(ホウテキ)して仏道に向かえ。
ココロに何の障害もなく、心身ともに永久に閑(ノド)かでいられる。
生涯現役なんぞトンでもないっ!

「心身永閑(シンジンエイカン)」

これぞ、老年の究極の生き方だと言う・・・。
 う〜〜〜ん。
思いっ切り納得した1冊だった。