同窓会のこと

  • 電話

 晩メシ時に電話が鳴った。
「はいっ!」
嫁さんが名乗らずに受話器を取る。
当世の常識となった警戒感いっぱいの電話応対である。
「どちら様ですか?」
”何だ、相手も名乗ってないのか?”
 嫁さん、思いっきり怪訝そう・・・。
「少々、お待ち下さい・・・」
「どしたの?」
「I村さんって知ってる?」
「へ?Iむら〜っ?」
「中学校の同級生とか言ってるけど・・・」
「ん〜〜〜〜っ。そんなん、いたかなあ・・・?」

  • オアシス

 とりあえず電話を代わった。
「お電話、代わりました」
「突然の電話で申し訳ない。I村です」
「・・・。どちらのI村さんでしたっけ?」
「中学の同級生なんですが・・・」
 こっちはまだ新手の振り込め詐欺を疑ってる。
「どこの中学ですか?」
沼津市立第二中学だよ」
”お、合ってるぜ”
「思い出せない?」
「う〜〜〜ん、思い出せないなあ・・・」
「『ぴら』って言ったら思い出せない?」
「あっ!」
 一瞬、フラッシュバックが起こった。
「思い出してくれた?」
「あ〜、あの『ぴら』かあ〜」
「いやあ、嬉しいなあ。砂漠でオアシスにたどり着いたみたいだ」

  • メンテナンス

 何故、「ぴら」ってあだ名か?
やたらにヒトに噛みついたもんで・・・。
「ぴら」は狂喜乱舞。
大喜びだった。
「いやあ、思い出してくれて感激だよ」
「ところで、どうやってここの電話番号がわかったの?」
「同級生のM下さんが名簿のメンテナンスをしてくれてるんだ」
”M下さん・・・?思い出せんなあ・・・。”
 「一度、同窓会をやりたいと思ってるんだ」
「ふう〜ん」
「で、まずはみんなに打診しながら感激を味わってるわけ・・・」
「ふうう〜ん」
「ぴら」は次々と同級生らしき名前を挙げた。
顔が浮かんだヒトもいる。
でも、大半はわかんなかった。

  • 40年

 「ぴら」はずいぶん大勢に電話したらしい。
でも、最後まで思い出してくれないヒトも少なくなかったらしい。
まるで汚いモノでも扱うようなヒトもいたとか・・・。
「悪いけど、あの頃の事は思い出したくないの」
そう言って電話を切ったヒトもいたそうな・・・。
 何となく、そのヒトの顔は浮かんできた。
”確かに大変だったもんなあ・・・。”
何せ、40年近い昔の話である。
思い出せる方が奇跡かも・・・。
 同窓会ねえ・・・。
この世代のヒトってあんまり興味ないんじゃないべか?
群れない世代、個室の世代である。
そして激動の日本を生き抜いてきた。
戦後日本の訳の分からない歴史に振り回されてきた。
40年は記憶の彼方って気がする。
 そりゃ、共通の価値観を持った仲間はいた方が楽しい。
でも、必要以上にベタついた人間関係を欲っしない。
そんな世代じゃないべか・・・。
同窓会ねえ・・・。
賛同者が集まるんだべか・・・?