フエのこと(1)【1/6】

 飛行機は、定刻に飛び立った。
見たことが無いカタチの飛行機だった。
前ポケットの案内を見ると「FOKKER 70」とか書いてあった。
何じゃ、そりゃ?
 早速、検索。
「FOKKER」ってのはオランダの会社で、もう倒産したそうな。
生産期間が短かったので、世界に48機しかないとか。
貴重な飛行機らしい。
でも、整備はどーしてんだべ?
ま、いっか。
 機内食が出た。
フランスパンのごついハムサンドだった。
今夜はフエで「宮廷料理」の予定になってる。
果たして喰っちゃっていいモンかどうか・・・。
時間的には腹もへった。
「宮廷料理」なんて、オチャラケで腹の足しになんないかも・・・。
迷った挙句、半分だけ喰っといた。
こういう案内が足りないんだよなあ・・・。

  • 豪雨

 フライト時間は70分。
次第に高度が下がって来た。
もうすぐフエに到着だ・・・。
っと思ったら、ぶ厚い雲に突入。
機体がガタガタ揺れ始めた。
窓を見ると、どうも雨粒らしきモンが当ってる。
 「げっ!雨だぜ!」
高度が下がるに連れて、明らかに雨粒が増えてる。
着陸する頃には滝のような土砂降りになった。
何だんねんっ!
「ついてないなあ〜、すごい雨だよ〜」
「参ったなあ、カサを持って来なかったよ・・・」
あっちこっちでぶちぶち声がする。
 CAが新聞紙を数枚ずつ配ってる。
これで何とかバスまで走れってな作戦らしい。
我が家は、用意周到。
ソナエあれば、お正月、っである。
悠然とカサを出して飛行機を降りた。
でも、関係なかった。
そーゆー次元の降りかたじゃなかった・・・。

  • 雨季

 滑走路も水が浮いてる。
もう諦めるっきゃない。
バスまでの10m、バスから到着ロビーまでの3mで、靴の中までぐっちょり・・・。
あ〜あっ・・・。
 更に、お迎えのバスははるか向こうの駐車場。
そこまでスーツケースを転がして行かなきゃなんない。
駐車場もあちこち水が浮いてる。
転がすと、スーツケースの中身が危うい。
しょーがないっ!
持ち上げて運ぶっきゃないじゃん。
強烈な筋トレになったぜ。
 バスに乗ると、スルーガイドが挨拶。
「アマガエルの『フォン』ですぅ。よろしくお願いしますぅ。あはははは・・・」
30歳っくらいのにーちゃんだった。
本人は「アマ・ガイド」と言ったつもりらしい。
でも「アマガエル」って聞こえた。
「アマガエル」でいいじゃんっ!
 「フエは9月から2月まで雨季ですぅ。毎日、雨ね。あはははは・・・」
「え〜〜〜っ!」
「ホントかよ〜っ!」
「そんなん、聞いてねえよっ!」

  • 殺気

 「アマガエル」はひとりでしゃべりまくった。
日本人の先生について、日本語の勉強をしたこと。
ハノイ生まれだけど、仕事でフエにひとり住まいしてること。
自分ではハンサムだと思うんだけど、何故かモテないこと・・・。
”沈黙が恐い”っと言わんばかりである。
 でも、メンバーのテンションは最低である。
ズブ濡れで、「雨季」だなんて言われて元気が出ない。
「アマガエル」は笑いを取ろうと懸命。
「あはははは・・・」
「アマガエル」のカラ笑いだけが虚しく車内に響く・・・。
みんな、だんだん腹が立ってくる。
 ほどなく「フォンザン・ホテル」に到着。
この地区で最大規模のホテルなんだとか・・・。
「ここで『宮廷料理』食べます。あはははは・・・」
「荷物はどうするの?」
「泊まりはこのホテルじゃないの?」
こういう案内がまったく足りないんだよなあ・・・。
妙な殺気が漂ってくる・・・。
無理もないか・・・。

  • 仮装大賞

 予定では、今夜は「宮廷料理」
「グエン王朝」の宮廷衣装を着て、ディナーである。
でも、もう時間は21:00過ぎ。
ずぶ濡れで、疲れてる。
イマイチ、気持ちが盛り上がんない・・・。
 案内されるまま、ホテル別館に連れて行かれた。
そこで、身支度させられた。
宮廷衣装と帽子を被らされた。
結構、笑える・・・。
 「ごわ〜〜んんん!ごわ〜〜んんん!」
ドラが響いた。
いつの間にか、笛・太鼓の楽隊も来てる。
「ぴ〜ひゃら、どんどん・・・」
この格好で宴会場まで行列である。
観光客の毛唐が集まって来て、物珍しげに見てる。
”まるっきり見世モンじゃんかっ!”

  • 食前酒

 王様夫婦はひな壇に上がる。
必ず、ちゃんと立候補するヒトがいるモンである。
それ以外のヒトは文官役で「御前会食」
ホテルのオーナーが招待役になり切って挨拶した。
「アマガエル」が呼ばれて通訳する。
ま、しょーもない挨拶だったけど・・・。
 まずは、食前酒「ミンマン」で乾杯。
「ミンマン」というのは「グエン王朝」の「明満帝」に由来するそうな。
この王様は、ちょー元気だったらしい。
夫人は500人いた。
子どもも150人いたという。
その元気さにあやかって乾杯ってな趣向らしい。
手遅れだってば・・・。
 料理が出始めた。
音楽をバックに優雅なディナーの始まりである。

 【1.Phoenix starter】
オードブルなんだけど、ニンジンや練りモンや卵でフェニックスを作ってある。
あんまり喰いモンって感じがしないんだけど・・・。
元々、練りモンも好きじゃないし・・・。
ま、飾りってこって・・・。
 【2.Crab and mushroom soup】
これはイケてた。
あっさり醤油系の味付けで、カニ肉もキノコもたっぷり。
あんまり腹が減ってなかったけど、これは完食した。
 【3.Steamed rice paste & ground shrimp】
米粉の平べったいヤツに、アミエビみたいなのがトッピングしてある。
あっさりしたモチに錦松梅を振りかけたみたいな・・・。
ま、さっぱり系で不味くはないけど、沢山喰うモンでもないような・・・。
 【4.Stir-fried shrimp with garlic】
名前から察するに、活エビを揚げたって事らしい。
初日から、何度か喰ってる天ぷらでもフリャアでもない素揚げ。
ニンニク風味で美味かった。
ベトナムのエビは、小振りながら締まっててイケてる。
 【5.Rolled steamed fish with sour and sweet vegitables】
この趣味が良くわかんなかった。
タイの尾頭付き仕立ての、蒸し鶏だった。
ニンジンでアタマと尻尾とヒレを作ってある。
ベトナムの鶏肉も良く締まってて美味いんだけど、このルックスがねえ・・・。
これも見てくれ勝負の飾りってこって・・・。
 【6.Grilled beef with ”Lot” leave】
これはガイドブックにも載ってた。
現地で「ボー・ラ・ロット」という名前らしい。
ひと口大の牛ひき肉を、ロットという葉っぱで巻いてグリルしたモンである。
真っ黒で、ちょっと見は日本のしそ巻きに似てる。
味は似ても似つかないけど、不味くはない。
ただ、そろそろ機内食のハムサンドが利いてきちゃった・・・。
せっかくのご馳走なのに・・・。
 【7.Mixed bamboo shoot with shrimp and pork】
タケノコの千切りと、エビ、ブタ肉を和えたサラダ仕立て。
ビールのつまみにぴったしでイケてたんだけど、残念ながらもう筒いっぱい。
結構、美味しかったのに・・・。
悔ぴい・・・。
 【8.Hue’s rice】
仕上げのご飯である。
ライスの上にニンジン、タマネギ、ハム、錦糸卵なんかをトッピング。
これを混ぜて喰うんだけど、言わばベトナム風チラシ。
極めてヘルシーである。
でも、やっぱもう喰えんかった・・・。
 【9.Dessert : Green pea sweet soup】
デザートもヘルシーだった。
グリーンピースのゼリーみたいな・・・。
いずれにしても、もう投了。

 ま、びっくりするほど美味いモンじゃなかった。
でも、話のネタにはなる。
機内食の所為で、後半の料理はほとんど丸残し・・・。
せっかくのご馳走なのに・・・。
何とも気がひけた。
企画に敬意を払って、星3つかな・・・。
”ちゃんと案内してくれれば、何も喰わなかったのに・・・。”
あちこちで、こんな声が聞こえた。