「バッチャン」のこと【1/5】

  • 左折

 バスが突如、左折を始めた。
これ又、大変な作業である。
一応、右側通行だから、対向車線を横切る。
日本での右折のイメージである。
 まず、ウィンカーを出す。
それからゆっくりと一旦、右に膨らむ。
後ろの方にいるバイクが大騒ぎ。
「び〜っ!び〜っ!び〜っ!」
クラクションの嵐。
 構わず、今度は左に大きくステアリングを切る。
あくまでゆっくり旋回する。
その間も、バイクは止まる気配なんかない。
バスの左右をぶんぶんすり抜けてく。
バスが完全に道を塞いで、初めてバイクが止まった。
 今度は対向車線である。
「び〜っ、び〜っ、び〜っ!」
クラクションとともに、ぶんぶん向かってくる。
もちろん、止まる気配なんかない。
バスはまったく構わず、のそのそと進む。
その内、諦めて止まるバイクが増えてくる。
晴れて、左折の完了。
やれやれ・・・。

  • 「バッチャン」

 バスは「バッチャン」に到着。
陶磁器の村、「バッチャン」である。
隣の村は「ジッチャン」である。
んな訳ゃね〜べや。
 ここの陶磁器の歴史は古いらしい。
800年以上昔から作られてたと言われるそうだ。
で、中国なんかへの貢物になってたとか。
15世紀頃には、貴重な輸出品だったそうな。
日本にも届いてたと言う。
 17世紀以降は中国製品にヤラれた。
めっきり衰退して、もっぱら国内用に作られてた。
最近は、アジア雑貨ブームで又、見直されてるらしい。
結構、海外バイヤーからの大量注文もあると言う。
どれほどのモンなのか・・・?
ちょと興味あるね。

  • 実演

 比較的大きな店に到着。
3階で実演を観せてくれると言う。
若いおねーさんがいっぱい働いてる。
土を型にはめて、ロクロで整えて・・・。
やり方はそんなに珍しいモンじゃなかった。
 おねーさん達が、釜から焼きあがった製品を取り出してた。
最近はガス釜にしたそうな。
これで破損品が1割以内に減ったそうだ。
炭で焼いてた頃は5〜6割の収率だったらしい。
 実演はこれでおしまい。
「1階、2階にセヒンがあります。どぞご覧下さい」
みんな、三々五々買い物に散っていった。
「とりあえずナメてみるかね・・・」
あんまり購買意欲はないけど・・・。
 早速、おねーさんが寄ってくる。
「ここは、”古いのモノ”ね。”新しいのモノ”は下にあります」
見ると、アンティークがガラスケースに入ってる。
アンティークとは言っても、5千円っくらいからある。
ずいぶん、リーズナブルだべや・・・。

  • 散歩

 ”新しいのモノ”も見た。
「何か、イケそーなもんある?」
嫁さんいわく。
「ここのは重すぎっ!日本の方が全然いいモンがあるでぇ〜」
ま、予想通りの反応だった。
 ずいぶん、時間が余っちゃった。
店の外に出てみる事にした。
通り沿いに陶磁器の店がずら〜っと並んでる。
「少しブラブラ散歩してみよかね」
 いきなり、横道から大きな黒いモンが出て来た。
「うぉっとぉ〜!」
水牛だった。
それも2頭で、のっしのっしと歩く。
バイクの洪水もとっても勝てそうもない・・・。
 「バタバタバタバタっ!」
今度は凄まじい爆音が・・・。
見ると、バイクに混じってエンジンむき出しトラック。
大きさは軽トラをひと回り大きくしたっくらい。
カーキ色で、軍用車みたいである。
ロシア製か、中国製だべか・・・?
 いずれにしても、ここも排ガスがすごい。
だんだん、眼とノドが痛くなってきた。
ジモティはみんなマスクしてるからいいけど・・・。
早々に、バスに逃げ帰った。

 みんな、考える事は同じ。
時間前なのに、バスに避難して来てる。

【教訓】 ベトナムを歩くヒトはマスクが必携!

散策なんて悠長なモンじゃない。
防毒マスクでもいいっくらいである。
 「おきゃさん、おちかれ様でごぜます。早めにハノイに行きましょか」
いや、疲れたんじゃなくってね・・・。
ハノイベトナムの首都でごぜます・・・」
お、ハノイの案内が・・・。
「ジンコは300万人です」
300万人がバイクで走り回るんだべか・・・。
 だんだん車窓の景色が変わってきた。
田園、ヤシ、バナナ、水牛、スゲガサが減ってきた。
大きなビルも増えてきた。
マナーは別として、道路も近代的になってきた。
ちょうど仕事帰りの時間である。
反対車線はバイクで埋め尽くされてきた。
やっぱし・・・。
壮観で言葉もない。

  • 「水上人形劇」

 「ひこきから見ると、ハノイはみずみが沢山ごぜます」
確かに、地図で見ても沢山ある。
今夜のホテルも湖のほとりらしい。
ってえ事は、街の中心からは遠いってこってすか?
ま、いいけど・・・。
 「今晩は、すいぞーにんぎょ行きます」
おお、そうだ!
今夜は有名な「水上人形劇」がある。
これも、ちょと楽しみである。
元々は、農家の娯楽だったと言う。
テレビでも何度も紹介されてて、一度は観たいと思ってた。
 「カメラはポケトに入れて入るね」
「・・・?」
「入り口でカメラ見せると、1ドル取られるね。もたいないね」
どっと笑いが起こった。
ガイドブックにも書いてある。
みんな、払うつもりでいたと思うんだけど・・・。
ま、お言葉に甘えて・・・。