珍しくもない本の雑感58

  • 守備範囲

 懲りないタチではある。
読む本の偏りが甚だしい。
まったく冒険が出来ない。
それでも、ちょっと反省して守備範囲を広げた。
・・・つもりだった。
 いつも「塩野・・・」、「村上・・・」の繰り返し。
古本屋に行っても、ついついこのヒト達のコーナーに行っちゃう。
しかも、両人とも精力的なモノ書きである。
作品はどんどん増えてく。
まだまだ読んでない本がいっぱい。
ついつい・・・。
 出来るだけ意識して他の誰かの作品も買ってはみる。
最近はこの誰かが「宮部・・・」に偏ってる。
「塩野・・・」、「村上・・・」、「宮部・・・」みたいな・・・。
懲りないタチである・・・。

  • 時代モン

 「宮部みゆき」の評判は上々らしい。
悪く言うヒトを聞いたことがない。
有名な作品も沢山ある。
解説なんか見ると、”天才”扱いである。
 ま、気持ちはわからないでもない。
何せ1960年生まれ。
”若い”とまで言わないけど、我々と近い世代。
すごく文章が読みやすくて楽である。
このあたりは「七生おばさん」とはちょっと違う。
言語が共通なんだべか?
 このヒトのジャンルはミステリとされてる。
その腕前が高く評価されてる。
なんだけどぉ、実は時代モンもなかなかいいっ!
どっちも、ハイレベルの娯楽小説だと思う。

  • 「堪忍箱」

 今回の作品は「堪忍箱」
江戸の市井のヒトビトの暮らしを描いてる。
舞台はお馴染み、本所回向院(エコウイン)。
「茂七親分」の世界である。
 収めてある8篇はこんな感じ。

    1. 堪忍箱
    2. かどわかし
    3. 敵持ち
    4. 十六夜髑髏
    5. お墓の下まで
    6. 謀りごと
    7. てんびんばかり
    8. 砂村新田

 いいっ!
どいつもこいつも・・・。
まるで日本人みたいじゃねえかっ!

  • ”粋”

 解説を書いてる「金子成人」ってぇヒトが言ってる。
宮部作品には”気恥ずかしさ”がある。
ふんぞり返ってもいないし、これ見よがしでもない。
裏地に贅を凝らす”粋”に通じるモンがあるんじゃないか。
今では通用しない有り様かも知れないけど・・・。
 ちょっと誉めすぎかも・・・。
でも、当たらずとも遠からずって気はする。
1編1編に、いろんな事情を抱えたヒトビトが登場する。
ささやかな夢や希望、せつせつたる思いや呟き・・・。
嫉妬、慮り、吐息なんかがある。
ヒトビトのココロのざわめきが描かれてる。
これが実に巧い。
思わず日本人で良かったって思っちゃう。

  • ”宮部節”

 しかも「宮部みゆき」らしさもテンコ盛り。
何てったってミステリ屋さんだべさ。
「敵持ち」や「お墓の下まで」はミステリそのものだった。
「謀りごと」もミステリだべさ。
 意外性も隠されてる。
砂村新田」はその典型だった。
病気のおとっつぁんの為に女中奉公に行く「お春」の話。
突然、様子が変わっておっかさんの話になる。
”あ、そういう話だったんだ・・・。”
って思わされる。
 印象に残ったセリフが2つ。

「よおく覚えておおき。世間様の風には、東も南もないんだ。ぜんぶ北風なんだからね」

 「ふき」が女中奉公にあがった時の先輩のセリフ。

「好きな人ができても、その人とは一緒にならない。その人に先に死なれたら悲しいもの」

 若くして両親を亡くした「お美代」のセリフ。