珍しくもない本の雑感57(9)

  【愛の年代記】

  • 女法王

 これも面白い1編だった。
女法王ってのは記録がないらしい。
2千年もの間、聖ペテロの後継者はオトコだった。
そういう法律があるのかどうか知らないけど、オトコだけが選ばれた。
例の「根競〜べ」である。
 ローマ法王庁の公式記録にはまったくない。
でも、プロテスタントの間では書き物が残されてるらしい。
女法王「ジョヴァンナ」である。
カトリック教徒はこれを”伝説”と言って片付けちゃう。
女法王について書いた者は破門されたという。
 「ジョヴァンナ」はドイツで生まれた。
両親は貧しいイギリス人修道士だった。
「ジョヴァンナ」が8歳の時に母親が死んだ。
13歳の時に、父親が死んだ。
彼女は迷わず尼僧院の門を叩いた。

  • 博識

 尼僧院長はすぐに気づいた。
「ジョヴァンナ」の博識と利発さはハンパじゃない。
彼女を僧院の図書館係りを任命した。
図書館とは言っても、蔵書は67冊だったとか。
それでも、”野蛮国ドイツにしたら上等”な方だったそうだ。
「ジョヴァンナ」は67冊をほとんど暗記してしまったらしい。
 ある日、筆写の仕事を言いつけられた。
手伝いの「フルメンツォ僧」も一緒だった。
2人は18歳と17歳だった。
「フルメンツォ」は「ジョヴァンナ」に感心した。
”こいつ、タダモンじゃないど!”
 2人は恋に落ちた。
「ジョヴァンナ」は尼僧院を抜け出した。
ロバにまたがって旅に出た。
そして男装して「フルメンツォ」の属する僧院に入った。
もう離れて暮らすなんて考えられない・・・。
でも、すぐにバレた。
こうなりゃ、逃げるっきゃない。
逃避行の始まりである。

  • 南下

 2人は南下してスイスに入った。
スイスは外国人には閉鎖的だが、お上に密告したりはしない。
これが”平和的”とされる由来だろうと言ってる。
「七生おばさん」の持ってるスイスのイメージなんだべな。
 2人は更に南下して、フランスに入った。
僧院などで寝床を乞いながら旅を続けた。
そしてマルセイユに到着。
生まれて初めて見る”海”がそこにあった。
しばらくは”飢え”も忘れて見とれていたそうな。
 港に、ヴェネツィアガレー船がいた。
「ジョヴァンナ」は前からギリシャアテネに憧れていた。
「乗せてちょーだいな!」
「あいよ。乗んな」
船は地中海に出航した。

  • しらみ

 船はコルシカ島サルデーニャ島にも寄港。
ま、地中海クルーズの地味版みたいなモンだべな。
2ヶ月後、ギリシャのコリントに到着。
そこからアテネまで歩いてった。
 アテネに到着すると、彼らはまず最も大きな教会に行った。
ミサに参加し、旅の無事を感謝し、寝食を願った。
北国から来た2人は僧たちに取り囲まれた。
彼らはアテネで最も徳の高い僧たちが集まる夕食会に招待された。
 徳の高い僧たちは外見からしてちょっと違ってた。
あまりに長く絶食して、口からうじ虫がこぼれ落ちる僧。
絶対に手も足も洗わない修行をしている僧。
全身の皮膚のしわの間にしらみを飼っている僧。
いずれも汚れて、臭くて、しらみだらけで痩せ細っていた。
「ジョヴァンナ」は気絶しそうになったそうな。

  • ローマ

 2人はアテネ郊外に庵を構えた。
「ジョヴァンナ」は僧院から借りた書物を読みまくった。
庵には高位な聖職者や政府高官たちがしばしば訪れた。
博識な「ジョヴァンナ」と話したいが為だった。
並外れた知性と教理上の知識と美しさはアテネ中の評判になった。
 「フルメンツォ」は取り残された。
「ジョヴァンナ」を愛するあまり、進歩が止まってしまった。
苦悩の日々が続く。
恋人の足元に泣き崩れることもあったとか・・・。
 「ジョヴァンナ」の腹は決まった。
このままじゃ、いかんざきっ!
ある日、ローマ行きの船に乗せてもらう。
「フルメンツォ」は捨てられた・・・。

  • 「根競〜べ」

 ローマに着いた「ジョヴァンナ」は法王に会いに行った。
時の法王は高齢の「レオーネ4世」だった。
彼は「ジョヴァンナ」の非凡さに感服し、神学教授に任命。
これで彼女の前途は大きく開けた。
 「ジョヴァンナ」の授業は大評判になった。
法王は彼女を特別私設秘書に任命した。
遂に彼女はローマ法王庁内部に入ることに成功した。
法王庁内でも彼女は評判となり、それはローマ庶民にまで浸透した。
 そんな時、「レオーネ4世」は死んだ。
さあ「根競〜べ」である。
聖ピエトロ広場はヒトがあふれた。
学生と、法王庁と、庶民を味方につけた「ジョヴァンナ」は強かった。
遂に女法王が誕生した。

  • 痛快

 女法王はミサの最中に産気づいてしまった。
赤ん坊を産み落としたまま、死んでしまった。
ローマ教会でもスキャンダル中のスキャンダルだったべ。
 「七生おばさん」いわく。
法王庁の公式記録に「ジョヴァンニ8世」の名はある。
けど、正確かどうかわかんない。
”そんなのは伝説でしかないっ!”
っといわれても仕方がない。
でも、もし本当だったら同性として何と痛快なことか・・・。
 いやあ〜、面白い本だった。
1編、1編堪能させてもらった。
めっちゃ安い1冊だった。
確かにイタリアはネタが多そうである。
多すぎて、北海道の寿司状態かも知んない。
でも「七生おばさん」は上手に料理してると思う。
最後に、正直にネタを全部並べて解説するなんざ、憎めない・・・。