珍しくもない本の雑感57(8)

  【愛の年代記】

  • 司祭

 16世紀のイタリアで聖職者は絶対だったらしい。
1番の出世街道である。
この1編は「ガレアッツォ」という若者の出世物語。
うまく行けば、枢機卿も夢じゃなかった。
1人の司祭が書き残した「ミラノの庶民の話」がネタ本だとか・・・。
 そんな訳で順風満帆な話じゃあなかった。
「ガレアッツォ」は優秀だった。
パドヴァの司教に認められ、秘書として大学に行かせてもらった。
たちまち神学と古典学の学位を得た。
 彼は司教に連れられてヴェネツィアを訪れた。
図書館に通って勉強する為だった。
ここの図書館にはギリシャの古写本がたくさんあった。
でも、ヴェネツィアは彼の運命を変えてしまった。

  • 夜会

 パドヴァの司教はいろんな招待を受ける。
ヴェネツィア総主教や名士から夜会の招待が続く。
司教は自慢の「ガレアッツォ」を必ず連れて行った。
きっと将来、役に立つべってなモンである。
 夜会には花がつきもの・・・。
上流階級の婦人たちも多く集まった。
若い「ガレアッツォ」に粉かけるオンナは多かった。
でも、彼の興味はギリシャの異教にあった。
彼の目には彼女たちはただの白い肉のかたまりにすぎなかった。
彼にはまだ、異性に対する夢がありすぎたらしい・・・。

  • ヴィーナス

 そんな「ガレアッツォ」が1人の女にハマってしまった。
彼女の名は「ビアンカ・グリマーニ」
彼女は群を抜いて美しかった。
彼女はヴェネツィアの大商人「グリマーニ」の妻だった。
夫は1年の大半、オリエントを旅している。

「ジュノーの気品と、ミネルヴァの頭脳に、ヴィーナスの魅惑を兼ねそなえながら、ヴェネツィア一の貞淑な女というわけさ」

 男たちはこう話したそうな。
ひょんな事から、2人は愛人関係になった。
 そう言えば、思い出した。
ヴェネツィアの資料館に展示されていた”貞操帯”。
思わず吹いてしまった。
ゴツい鉄製で、まるでクマの罠だった。
こんなモンを大真面目で作らなきゃならなかった・・・。
ヴェネツィア商人も気の毒だべや。

  • 栄転

 ある日、パドヴァの司教は大出世し、枢機卿になった。
ローマ法王庁内の要職に就いた。
秘書の「ガレアッツォ」にとっても大栄転だった。
ローマ法王庁勤務である。
能力を存分に発揮出来る環境だべや。
 でも、「ガレアッツォ」は浮かなかった。
”「ビアンカ」と簡単には会えなくなっちゃうべやっ!”
彼は一計を案じて、彼女の肖像画を描かせることにした。
探し回って何とか”B級画家”を見つけ出した。
これが又、運命の歯車を狂わせちゃった。
 肖像画は1ヶ月ほどかかるという話だった。
完成したらローマに送る約束だった。
「ガレアッツォ」は3日と空けず手紙を送った。
でも、3ヶ月過ぎても音沙汰なかった。
さすがに彼も心配になって来た。

  • 転落

 「ガレアッツォ」は休みを取ってヴェネツィアに行った。
母の病気見舞いってこって・・・。
画家の家についた彼はひっくり返った。
そこには娼婦と見まがうばかりの「ビアンカ」がいた。
SMプレイさながらの「ビアンカ」の眼は官能に濁っていた。
 「ガレアッツォ」はキレた。
夜中に飲んだくれた画家を刺し殺した。
死体はそのまま運河に流し込んだ。
でも、いずれバレるべ・・・。
もう、ここにはいられない。
 「ガレアッツォ」はミラノ領内に逃げた。
さすがのヴェネツィア共和国警察もここまでは追ってこれなかった。
ここでその日暮の生活をし、毎日飲んだくれた。
枢機卿も眼の前だった若者の転落物語だった。
続きは又・・・。