珍しくもない本の雑感57(7)

  【愛の年代記】

  • モノノフ

 14世紀のイタリアには傭兵も多かった。
傭兵を業とするモノノフには3種類あったという。

    1. マントヴァ、リミニのような小国の外貨獲得の手段としての副業
    2. 生国の勢力争いに敗れて追い出され、リベンジの為の手段
    3. 生まれも定かじゃない下層出身者が1発当てようってな魂胆の傭兵

 この1編の主人公は2番目のジャンル。
「フィリッポ伯」は勇敢な傭兵隊長として知られていた。
「伯爵」と部下は呼んだが、本人はわかってた。
国を追われた身で「伯爵」もヘチマもないんである。
何とか名誉挽回を狙っていた。

  • モノノフ姫

 「フィリッポ伯」は嫁をとった。
雇われ先の「サヴェッリ家」の娘だった。
「サヴェッリ家」にすれば、是非身内にしたい傭兵隊長だった。
嫁いで来た「イザベッタ」は20歳。
「フィリッポ伯」とは倍も歳が違っていた。
 モノノフ姫はどーしよーもなかった。
甘やかされて、わがまま放題に育った娘は救い難かった。
新居は、持参金代わりのローマ郊外の城。
親の目からも離れ、わがまま娘は自由を満喫した。
でも、オトナの「フィリッポ伯」は「イザベッタ」の好きなようにさせた。
 2年後、女の子が生まれた。
でも、「イザベッタ」はますます増長した。
子どもも放ったらかし、オトコも何人か作った。
職業柄、「フィリッポ伯」は家を空けることが多い。
それでも妻の浮気の噂は、耳に届くようになってきた。

  • おとり捜査

 「イザベッタ」はこう考えた。
傭兵隊長ふぜいに、名家から嫁いで来てやったのだ。”
”夫は感謝すべきだが、私には貞淑である義務などないのだ。”
「イザベッタ」はどんどん大胆になった。
”知ってるくせに、夫は腹を立てる勇気もないのだ。”
救い難い・・・。
 「フィリッポ伯」はある部下の変化に気づいた。
「リッツォ」という若者が、急に傲慢な態度になった。
”さては・・・。”
「フィリッポ伯」は突然、10日間ほどの遠征に出掛けた。
幼い娘や乳母、従女も連れて行った。
通りがかりに両親の実家に届けるという口実で・・・。
 ほどなく、「イザベッタ」がいごいた。
警備の兵にしこたまブドウ酒を飲ませた。
「リッツォ」だけは”今夜は不寝番だ”と言って酒をひかえた。
そして深夜、「フィリッポ伯」に現場を押さえられた。

  • 復讐

 「フィリッポ伯」の復讐はなかなかエグかった。
「七生おばさん」の本領発揮である。
「リッツォ」については淡白だった。
押さえた現場で、そのまま天井から吊るした。
 「イザベッタ」には執拗な復讐が待っていたという。
彼女は地下牢の壁にくくりつけられた。
そしてくぎ抜きですべての歯を1本1本抜き取られた。
「フィリッポ伯」はその様子を眺めていたそうな。
 翌日、十分な給料を与えられて下男・下女が城を去った。
数日後、「イザベッタ」は地下牢から連れ出された。
そして、城内の1室に連れて行かれた。
そこには5〜60cmの奥行きにくり抜かれた壁があった。
壁にはレンガが積まれ、しっくいが塗られた。
 暫らくして、「イザベッタ」の実家の人々が様子を見にきた。
城は無人だった。
そして、地下牢に散らばった歯を見つけてすべてを悟ったとか・・・。

ローマでは、今でも、古い家の改修工事の折などに、壁の中から白骨が発見されることがある。

げっ!
続きは又・・・。