珍しくもない本の雑感57(6)

  【愛の年代記】

  • 「カッサパンカ」

 次の1編は、ちょっと恐怖モノだった。
ネタは単なるゴシップなんだけど、教訓めいた結末になってる。
教訓ってえのはこれである。

「女は恐ろしい。あれは魔ものだ。どんな聖女でも、それが女であれば、気を許したりしたら大変なことになる」

 「カッサパンカ」ってえのも初めて知った。
これは嫁入りの時に持ってくるツヅミみたいなモンらしい。
木製の長椅子型の木箱で、長さは2mっくらい。
どっこの史料館なんかで見かけたかも・・・。
 この1編の主役は「カッサパンカ」である。
14世紀のはじめ、リミニという町での話だとか。
美男でパラサイトの「パンドルフォ」という20歳の若者がいた。
オンナはよりどりみどりだったそうな。

  • フリン

 「パンドルフォ」は、ふとした事からフリンに走った。
相手はちょー貞淑な人妻「キアラ」
40歳だった。
「キアラ」は若いツバメに夢中になっちゃった。
 「パンドルフォ」も物珍しかったんだべ。
こんな信心深い貞淑なオンナにはお目にかかった事がない。
又、フリンのスリルもあったかも・・・。
でも、ちょっとスリルがあり過ぎた・・・。
 「キアラ」は突然、不治の病に倒れた。
日に日に衰えて、自ら明日をも知れぬ命と悟った。
”自分が死んだら、きっと愛人はすぐ若いオンナに夢中になるべ・・・。”
”そんなこと、許せないっ!”
純粋培養がキレると危ないのは世の常だべさ。

  • 道づれ

 「キアラ」は作戦を練った。
そして実行した。
ある日「パンドルフォ」を部屋に呼んだ。
ちょうどその時に亭主が帰ってくるように仕組んだ。
 「パンドルフォ」は焦った。
「キアラ」は作戦通り「カッサパンカ」に隠れるように言う。
そして部屋に入ってきた亭主に”遺言”を託す。
「想い出の『カッサパンカ』と一緒にお墓に入れてほしいんです」
ヒトの良い亭主はもちろん了解する。
 「ここにカギがあります。あなた、かけて下さいますか」
亭主は泣きながらカギをかけてやった。
「パンドルフォ」はひっくり返った。
でも、騒ぐことも出来ない。
ここでバレたら、家人に殴り殺されちゃう・・・。

  • 墓地

 「キアラ」の葬列は大変だった。
6人の男に捧げ持つ「キアラ」の遺体が墓地に向かう。
その後ろから、「カッサパンカ」を乗せた馬車が続く。
奇妙な光景だった。
 特別、大きな穴が掘られた墓地でミサが行われる。
遺体と「カッサパンカ」が並べて安置された。
ミサが終わり、墓を埋めることになった。
でも、あまりに穴がでか過ぎて、みんな待ちきれなかった。
あとは明日にしようってんで人夫も帰っちゃった。
 万事休す・・・。
”もう、オレはこのまま死ぬっきゃないべ・・・。”
確かに、半分以上死んだようなモンだった。

  • ゾンビ

 その晩、3人の男が墓地にやってきた。
親族のモンだった。
「あの「カッサパンカ」の重さはタダモンじゃないぜ」
「宝石や銀食器類が詰まってるかも・・・」
 早速、墓荒らしをはじめた。
幸い、まだ埋まってない。
「カッサパンカ」のカギをこじ開けた。
フタが開いた瞬間・・・。
 「ぎゃわあああああ〜っ!」
「パンドルフォ」の歓喜の絶叫が墓地に響き渡った。
男たちは生きた心地もしない。
ゾンビか、何か正体を見届けるゆとりなんかないべな。
一目散に逃げてしまった。
”九死に一生”ったあこのことだんべ。
 ところで素朴な疑問。
この1編の史料って何だったんだべ?
どう考えても「パンドルフォ」って男しかわかんない話だべさ・・・。
続きは又・・・。