珍しくもない本の雑感57(5)

  【愛の年代記】

  • 名君

 15世紀のイタリア、フェラーラ
「エステ家」の当主、「ニコロ3世」は名君と評判だった。
領民は利発な領主「ニコロ」を支持した。
が、名君にも1つだけ弱点があった。
めっちゃ、オンナにだらしがなかった。
やたらに惚れやすかったそうな。
 最初の結婚相手がイマイチだったことも災いしたらしい。
愛人の数も、庶子の数もハンパじゃなかった。
正夫人もたまったモンじゃないべな。
惨めな気持ちで子宝に恵まれないまま若死にした。
 ま、子どもの数だけは沢山いた。
「ニコロ」は庶子の中で、秀逸な3兄弟を特に可愛がった。
「ウーゴ」、「リオネッロ」、「ボルソ」の3人である。
「ニコロ」は自分の後継ぎのつもりで大切に育てた。
実際、「リオネッロ」と「ボルソ」は「エステ家」の後を継いだそうな。

  • 再婚

 「ニコロ」は35歳でチョンガーになった。
でも、まだまだイケるってんで再婚した。
相手は名門「マラテスタ家」の娘、「パリシーナ」だった。
15歳。
その歳の差、20歳である。
 4年の結婚生活は順調そうに見えた。
男の子も2人生まれた。
繁殖力はバツグンだったらしい。
 でも、”スズメ百まで踊り忘れず・・・。”
また、愛人作りに精を出し始めた。
仕事も兼ねて、家を空けることも多かったらしい。
結婚もヘチマもあったモンじゃないべや・・・。
 「パリシーナ」の眼がいつしか、「ウーゴ」に注がれるようになった。
「ウーゴ」は18歳。
義理の母と歳の差は1つしかない。
無理もないべや・・・。

  • 禁断

 「パリシーナ」は抑えが利かなくなった。
「ウーゴ」にアタックして、ついに落としてしまった。
禁断の恋である。
2年間、この恋は誰にも気づかれずに続いたそうな。
 でも、やっぱバレた。
「ニコロ侯爵」はすぐにいごいた。
たちまち2人は捕らえられた。
「ウーゴ」はすぐに全てを認めて謝罪した。
「パリシーナ」は、暴れたらしい。
自分が誘惑したんであって、「ウーゴ」には何の罪も無いっ!
 ホンキで恋してたんだんべな。
「ウーゴ」は無言のままクビを斬られた。
「パリシーナ」は恋人の名を叫びながらだったそうな。
名君か、迷君かわかんないけど自分のこたあ棚に上げて・・・。
時代なんだって言えばそれまでだけど・・・。

  • 因縁

 「パリシーナ」がクビを切られたのは宮殿の牢。
牢ってのは、たいがい塔にあったらしい。
この同じ塔が次の1編にも登場する。
 百年後の話だったそうな。
名君「ニコロ3世」の末裔「ドン・ジュリオ」がここに監禁される。
”ドン・ジュリオの悲劇”ってなタイトルである。
同じ宮殿が凄惨な舞台になった。
 この1編は言わば”兄弟ゲンカ”である。
弟達のオンナ争いに端を発して、怨念の世界が広がる。
長男の「アルフォンソ」はえりゃあ苦労する。
結局、血で血を洗う惨劇になって行く。
中世の感覚ってのは、えりゃあ残酷である。
 「七生」おばさんは、それを淡々と描く。
処刑の場面や戦いの場面ってかなり多い。
淡々と細かい描写が続くんで、何ともあずましくな〜い。
ひょっとして楽しんでんじゃないべな。
昂ぶる気持ちを抑える為に、筆圧を軽くしてるみたいな・・・。

  • 史料

 この1編には馴染みのある名前がゴロゴロ出てくる。
「エステ家」長男の「アルフォンソ」は29歳でフェラーラ公国領主になった。
姉の長女は隣国マントヴァに嫁いだ「イザベッラ・デステ」
あの「ルネサンスの女たち」の初っ端に出てくる女傑である。
その亭主は「フランチェスコ・ゴンガーザ侯爵」
 長男は、兄弟ゲンカの末の傷害事件を必死で隠した。
ローマ法王には”ヒト違いによる事故だった”と公文書で報告した。
でも、信頼出来る姉ちゃんには本音の手紙を出した。
”追伸”に真実を書いて、「Your eyes only」で送ったとか・・・。
当然、マントヴァ公はその手紙を焼かずに温存した。
姉ちゃんは舌打ちしたそうだ。
”ったく・・・、ばかったれがあ〜っ”
 「七生おばさん」は言う。
何もできない男に対し、ルネサンスという時代は厳しかった。
でも、この手紙が残ったお陰でこの作品が書ける。
400年以上も昔の描写が出来るのもマントヴァ古文書庫のお陰だと・・・。
この史料があってこそ、面白いっ!
続きは又・・・。