珍しくもない本の雑感56

  • ミステリ

 久々に守備範囲を広げた。
放っておくと、ついつい偏ってしまう。
古本屋に行くと、いつも同じコーナーに行っちゃう。
「村上・・・」と「塩野・・・」・・・。
バカの1つ覚えである。
 ちったあ、反省してる。
少し、幅広く読まんと・・・。
宮部みゆき」を買ってきた。
以前、1つだけ読んだことがある。
「隣の客は殺人犯」みたいなタイトルだったような・・・。
 ジャンルはミステリとされてるらしい。
”whodunit(フーダニット)”ってヤツですか?
そんなにびっくりはしなかった。
でも、アイデアには感心した覚えがある。
これがこのヒトのウリらしい。

  • 時代モノ

 このヒトの評価はかなりのモンらしい。
いろんなとこで、「宮部みゆき」はいいっ!って声を聞く。
ミステリに必要な要素を兼ね備えているらしい。
賛辞には事欠かない。
サスペンスフル、トリッキーみたいな・・・。
 でも、今回見つけた本はちょっと毛色が違う。
「本所深川ふしぎ草子」
時代モノだった。
へえ〜っ・・・。
こんなモンも書いてんだ。
ってんでついつい買って来ちゃった。
 ところがところが・・・。
面白いじゃ、あ〜りませんかっ!
ミステリの要素と時代モノが合体するとこうなる。
っみたいな感じだった。
山本周五郎藤沢周平とはひと味違う。
やるじゃんっ!

  • ド日本人

 時代モンは嫌いじゃない。
何故か?
そりゃ、絶滅した日本人魂を見られるから・・・。
まったく現代日本とはかけ離れてる。
でも、日本人ってえなあ、こーゆーモンだったべや。
 そーなんだよなあ・・・。
ド日本人なんだよなあ・・・。
義理人情モンはココロが落ち着く。
今や、絶滅したってわかってるくせに・・・。
どっかにヘンな期待があるんだべなあ・・・。
 この本は十分、それを堪能できる。
このヒトは物語つくりが巧いわ。
それ故にストーリーの巧妙性に目を奪われがちだんべな。
でも、ニンゲンの描き方はもっと巧い。
ココロの機微を描くワザがすごい。
うなってしまった。

  • 「茂七親分」

 この本は7話からなる短編集である。
背景はすべて共通。
本所に伝わる七不思議がモチーフである。
全編に登場する「回向院(えこういん)の親分」がいい味出してる。
岡っ引きの「茂七親分」である。
情に篤い上に、アタマがキレる。
やたらにカッコいいんである。
 7編はこんなタイトル。

    1. 片葉の芦
    2. 送り提灯
    3. 置いてけ堀
    4. 落なしの椎
    5. 馬鹿囃子
    6. 足洗い屋敷
    7. 消えずの行灯

 本所の七不思議なんだそうだ。
それぞれが巧い。

  • 「恵み」

 一番良かったのは「片葉の芦」かな。
両国橋近辺に生える芦は何故か葉っぱが片側にしかつかない。
ってな七不思議の1つだとか・・・。
この「片葉」を比喩として上手に使ってる。
 話は「近江屋藤兵衛」が殺された場面から始まる。
「近江屋」は一代で築き上げた高級寿司屋。
宵越しの飯は使わない。
残った酢飯は全部大川に捨ててしまう。
このやり方が見栄っ張りの江戸っ子に受けた。
 「藤兵衛」には1人娘「お美津」がいた。
「お美津」はこの父親のやり方を嫌い、反発していた。
「お美津」が、飢えた「彦次」を見かけたのはそんな時だった。
「彦次」は握り飯を恵んでもらった。
「明日もいらっしゃい。うちにはご飯はたんとあるから・・・」
「彦次」は毎日、「近江屋」の裏口に通った。
 でも、ある日「藤兵衛」に見つかっちゃった。
「お美津っ!おめえにはまだわからねえのかっ!」
「おとっつぁんは鬼よっ!」
「鬼でも何でもいい。残り物をヒトにやることは許さねえっ!」
そして「彦次」に向かって言った。
「おめえは犬に成り下がってもかまわねえのか?」
 犬?
ちょっと聞き捨てならねえ・・・。
けど、ま、とりあえず聞いとこうじゃねえか。

  • 「ヒト助け」

 「彦次」は「お美津」に誓った。
「おいら、きっと何とかしてお嬢さんにお返しできるようになってみせます」
「お美津」は「彦次」の手を握って言った。
「あたし、あんたがきっと立派になって、顔を見せてくれるのを待ってる」
「彦次」10歳の時の話である。
 人生の転機だった。
「彦次」は蕎麦屋に奉公に出た。
1日も「お美津」のことを忘れた事はなかった。
10年の修行の末、いっぱしの蕎麦職人になった。
 「彦次」は「お美津」に約束の挨拶に行く。
でも、「お美津」は「彦次」を覚えていなかった。
「そういうことなら沢山ありましたから、気にしないで下さいまし」
 古番頭が言う。
「『恵む』ことと『助ける』ことの差は、お嬢さんにはわかりますまい」
この時、「彦次」は初めて知った。
「彦次」を蕎麦屋に世話したのは「藤兵衛」だったことを・・・。
 いいっ!
ちっくしょ〜モンだべや・・・。