珍しくもない本の雑感55(6)

 【辺境・近境】

 雑誌の美人編集者「マツオさん」を挑発して旅に出た。
讃岐うどん探訪のためだけの2泊3日。
イラストレーターの「安西水丸」も一緒だった。
わかり易い。
確かにテーマは明確である。
 1度だけ、本場の讃岐うどんを喰いに行った事がある。
岡山から船に乗った。
小豆島と高松に行った。
今からもう33年も昔になる。
若かった。
切符を買う時、小豆島の港を「ドジョウ」とか読んでた。
後から思うと、こっ恥ずかしい。
 確かにあの時に喰ったうどんは感激した。
美味かったあ〜。
世の中にこんなに美味いうどんがある事え知ってしまった。
今、あのうどんを喰ったらどう感じるべ?
興味あるところである。

  • ハシゴ

 この旅は、まさにうどんツアーである。
ひたすらうどん喰いまくり、チャレンジツアーだった。

【小縣家(オガタヤ)】
いきなりおろし金と大根が出て来た。あとはスダチとネギ、生姜、七味、ゴマ、練りワサビ、味の素が定番。冷たいうどんに醤油をぶっかけて喰う「醤油うどん」が有名。シンプルにして大胆で、イケたそうだ。大盛り400円、小盛り300円。「おでん」や「いなり寿司」もあった。

【中村うどん】
最ディープなうどん屋だったそうだ。田んぼの中の一軒屋で看板もない。客は並べてあるうどん玉を勝手に湯がいて、だし汁や醤油をぶっ掛けて喰う。勝手にカネを置いて帰る、究極のセルフうどん屋だった。うどんはひと玉80円と格安。ネギ、生姜、七味、味の素、醤油、うどんの具として「ちくわ」「はんぺん」「天ぷら」もある。出来立てのうどんは香ばしく、痛快アル・デンテで1ランク違うとか・・・。

【山下うどん】
川のほとりで粉ひき水車が残る店で、元々は製麺所だった。ちょっとしたサービスで食べさせたのがキッカケで商売が始まった。ネギ、ゴマ、生姜、味の素、醤油と揃っていて、うどん玉は100円。「ちくわの天ぷら」は70円。訊くと、戦後は国内産小麦が手に入らなくなって味が変わったという。今では小麦粉はほとんどオーストラリア産だが、香川県だけは袋に(香)マークのついた特別な配合小麦粉が流通してるそうだ。

 うどんのハシゴも大変である。
そろそろカレーなんかが喰いたくなってきたそうだ。

【がもううどん】
著者はロケーション的には一番気に入ったそうだ。田んぼの真ん前で、縁台に腰掛けてうどんを喰うと、眼の前に稲田がざあ〜っと広がってる。季節は秋、稲穂は風にさわさわと揺れ、空はあくまで高く、鳥の声が聞こえる。もちろん、うどんも美味い。かけうどんが80円、大盛りは140円。コロッケと卵もある。

【久保うどん】
高松市内にある製麺所直営店である。外から見てもちゃんとうどん屋の体裁が整っていたそうな。ここのだし汁はいりこの味がぷんと匂って美味かったそうだ。カウンターに「コロッケ」や「いなり寿司」があって、朝メシを喰うサラリーマン風のヒトで朝から混んでたそうだ。小玉120円、大玉190円、特大玉260円だった。

  • うどん観

 他にももっともっとまわったらしいが、割愛。
どこもみんな一定レベル以上の美味さだったらしい。
1年分のうどんを3日で喰ったような気がしたそうだ。
そりゃ、そーだんべ。
 このツアーで著者のうどん観は変わったそうだ。
”革命的転換”だったそうだ。
香川県のうどんは、あらゆる疑いを超越して美味かった。
腰の座った生活の匂いがしたそうだ。
 香川県人がうどんについて話すと、しみじみとした実感があった。
まるで家族の一員について話してるような温もりがあった。
誰もがうどんについて想い出を持っていた。
そして、それを懐かしそうに話してくれる。
この温もりが、美味みを生むんだと思ったそうな。