珍しくもない本の雑感55(2)

 【辺境・近境】

  • 目次

 7つの旅行記はこの通り。

    1. イースト・ハンプトン 作家たちの静かな聖地
    2. 無人島・からす島の秘密
    3. メキシコ大旅行 ・プエルト・バヤルタからオアハカまで ・共同の夢を見る人々
    4. 讃岐・超ディープうどん紀行
    5. ノモンハン鉄の墓場 ・大連からハイラルへ ・ハイラルからノモンハンまで ・ウランバートルからハルハ河まで
    6. アメリカ大陸を横断しよう ・病としての旅行、牛の値段、退屈なモーテル ・ウェルカムという名の町、西部のチャイナタウン、ユタの人々
    7. 神戸まで歩く

 写真は「松村映三」
イラストはお馴染み「安西水丸」である。
ま、言わば取材旅行なんだべな・・・。
今の世の中、「辺境」なんてありゃしないわよ。
でも、自ら「辺境」を作り出してる・・・。

  • 聖地

 仕事で「イースト・ハンプトン」に行ったらしい。
ロングアイランド」の東の端。
文筆家の聖地なんだそうだ。
プライベートビーチ付きの高級避暑地だとか。
作家が成功した証になってる。
 行ってみると、美しいところだったそうだ。
スケールも大きい。
軽井沢と鎌倉を足して2倍してもまだ及ばないとか。
何も作家だけじゃないらしい。
リッチ&フェイマスが大勢ここに家を持ってる。
 「ラルフ・ローレン」「スティーブン・スピルバーグ
ビリー・ジョエル」「カルヴァン・クライン」
ロバート・デ・ニーロ」「ポール・サイモン」・・・。
普段はみんな「ニューヨーク」のシティーに住んでる。

  • 理想郷

 「イースト・ハンプトン」は避暑地である。
夏の間は人々であふれる。
毎晩、パーティーがあって賑やからしい。
作家にとってはうんざりしてくるとか・・・。
ちょうどうんざりした頃になると秋がやってくる。
 秋になると様相が一変するそうだ。
皆、クルマで2時間の「ニューヨーク」に帰って行く。
残った作家は静かな環境でゆっくり仕事をする。
誰にも邪魔されることがない。
そして、そろそろ退屈になってくると5月になる。
 又、人々が集まって刺激をくれる。
作家にとって理想的な環境なんだそうだ。
何故、有名人が「ハンプトン」に集まるのか?
著者もいろんなヒトに訊いてみたらしい。
地の利、風景、環境保護、治安、文化・・・。
でも、一番説得力のあった答えはこれだったそうな。

有名人はとにかく有名人と一緒にいるのが好きなんだ。そうしているのが彼らにとってはいちばん安心できるみたいだよ。

 ふと思った。
なんで著者は「オハイオ州」の旅行記を載せなかったんだべ?
わざわざ墓を尋ねに行ったのに・・・。
デレク・ハートフィールド」の墓である。
村上春樹」の運命を決めた作家だった。
 墓は、唯一の「ハートフィールド研究家が教えてくれたそうだ。
「ハイヒールの踵くらいの小さな墓です・・・」
見落とさないようにっと手紙に書いてくれたそうな。
著者は「ニューヨーク」からオハイオ州に向かった。
巨大な棺桶のようなグレイハウンド・バスに乗って・・・。

町の外れの草原を越えたところに墓地はあった。町よりも広い墓地だ。
たっぷり1時間かけて「ハートフィールド」の墓を探し出した。
まわりの草原で摘んだ埃っぽい野バラを捧げてから墓に向かって手を合わせ、腰を下ろして煙草を吸った。
5月の柔らかな日ざしの下では、生も死も同じくらい安らかなように感じられた。

 著者のデビュー作の一場面である。
若々しいというか、みずみずしいというか・・・。
何とも言えない雰囲気がある。
正に「いくぶん非日常的な日常」って気がするけど・・・。
でも、何かが違うんだべな・・・。
続きは又・・・。