和食屋の雑感13

  • 「秋メニュー」

 秋である。
どうしようもなく秋である。
どこもみんな「秋メニュー」を用意する。
 きっと「丸子(ワンズ)」も10月から秋のメニューに変わるべ。
よっしゃ、誕生日ディナーは「丸子」にしよう。
10月1日は第1日曜日で営業日だし・・・。
土曜日の内にこんな作戦を立てていた。
アタマの中はすっかり中華モードだった。
 夕方、出掛ける支度をする。

「ねえ、どうしても『丸子』じゃなきゃダメ・・・?」

出たっ!
得意ワザ、「気まぐれドタキャン!」
「何かさっぱりした和食が食べたいな・・・」
はいはい・・・。
主役は常に嫁さんなのである。

  • 飛び込み

 っとは言っても、まったくアテなし。
「松葉」のソバか、グランドホテル神奈中っくらいしか思いつかない。
グランドホテル神奈中の和食屋は「松風」
そこそこのお値段である。
 嫁さんはお友だちとちょくちょく行ってるらしい。
でも、あんまりいい事は言わない。
大分前に会社の送別会で使ったこともある。
でも、喰いモンの印象は残ってないなあ・・・。
 ま、でもしゃーあんめ。
飛び込むっきゃしょうがない。
気まぐれ、思いつきなんだから・・・。
ってんで、飛び込んだ。
 客は2組っくらいだった。
メニューを見ると、オール懐石コース料理。
単品料理ってのはない。
コースは5〜6千円から1万2千円まで幅広い。
もちろん、嫁さんの直感にお任せである。

  • 特別企画

 ここんちは毎月、お得な企画メニューがあるという。
10月は「美味三昧」という企画だった。
まさに「秋メニュー」そのもの。
松茸はじめキノコや山菜をふんだんに使ってる。
金目鯛、タラバガニ、伊勢海老、シャケ・・・。
秋っぽい・・・。
 この企画は、前売り券で5千円。
当日注文は7千円だとか。
気まぐれ、思いつきだと2千円高くなるという趣向である。
ま、どーでもいいんだけど・・・。
カネで済む話である。
 嫁さんは「錦」ってなコースを選んだ。
値段は6千円っくらいとびみょーなラインである。
内容は企画メニューと良く似てる。
ま、お手並み拝見・・・。

  • 驚嘆

 まずはビール。
嬉しいことに「アサヒスーパードライ」があった。
「生チュー」をオーダーして、出て来たビールは大振りのグラス。
お値段は750円。
北欧並みじゃん・・・。

 【先付】
「松茸と菊菜のお浸し」、「石川小芋」、「蓮根煎餅」、「海老塩茹で」、
「銀杏丸十」、「煎り銀杏」・・・とお品書きには書いてあった。
 これが1つの器に実にキレイに並んでる。
さらに書かれていない「ニシンのタラコ乗せ」もあった。
 ちょっと虚を突かれた。
”あれ〜?ここんちってこんなセンスだったかな〜?”
素っ晴しい盛り付けである。
喰っちゃうのがもったいないみたい。
味もいい。
1つ1つ丁寧で、すんごくデリケートな味だった。
”あれっ?あれっ?”って感じ・・・。
 【吸い物】
「松茸土瓶蒸し」-「紅葉鯛」、「海老」、「笹身」、「銀杏」、「三つ葉」
 いやあ〜っ!
美味かったあ〜っ!
幸せだった。
難を言えば、ホンのちょっとだけしょっぱく感じた。
っとは言え、この街では薄味な方だべな・・・。
我々の舌が極ウスになってる所為もあるべ。
 【お造り】
「季節のお造り」-「本鮪」、「黒鯛」、「カンパチ」、「海老」、「帆立」
 これも美味かった。
少しずつ、上品な盛り付けで見た目も美味そう。
そして、ネタも間違いなかった。
嫁さんが「『N々菜』と競るっくらい美味い!」と絶賛。
ホンモノである。
 【煮物】
「たらば蟹鍬鍋」-「京水菜」、「舞茸」、「紅葉麩」、「ゆず」
 こんなに美味いタラバガニ喰ったのは北海道以来。
それも釧路あたりの老舗に負けないっくらい。
ホンットに美味いタラバだった。
多分、焼いて旨味を閉じ込めて鍋にしたんじゃないかな・・・。
野菜も麩も上品でイケてた。
 この辺で、嫁さんとふひそひそ話。
「っかしいなあ〜。ここんち、こんな印象じゃなかったぜ」
「私もそう思ってたの。板さんが変わったのかしら・・・?」
「この内容なら全然高くない。これならどこでも勝負出来るべ」
 【焼物八寸】
「炙り和牛ロース」、「秋味柚子焼き」、「畳鰯」、「伏見とうからし」
 ここで肉が登場。
ホントはサカナの焼物が喰いたかったなあ・・・。
そこまでメニューを良く見てはいなかった。
 でも、好きなヒトならこたえられない肉だったと思う。
柔らかく、アブラが乗ったロースだった。
付け合せの「柚子」や「畳鰯」も美味かった。
さらにお品書きにない「鮭塩焼き」が乗っていた。
この小さなシャケが又、アブラが乗ってて美味かった。
嫁さんいわく。
「これって時不知(トキシラズ)」じゃないの?」
それっくらい美味かった。
 【揚げ物】
「海老芋揚げ出し」、「紅葉卸し」、「糸花鰹」
 肉の後で、揚げ物はきついなあ・・・っと思ってた。
ところが出て来たのは「揚げ出し」だった。
それもさっぱりとした「海老芋」
ちょうどいい塩加減で美味かった。
心憎い献立だった。
 【酢の物】
「海老と帆立のジュレ」、「トマト」、「緑アスパラ」、「セルフィーユ」
 これもちょっとびっくり。
こりゃ、酢のモンじゃないべ。
まるでフランス料理のサラダみたい。
トマトの薄切りの上に色鮮やかに盛り付けてある。
美味かったけど、唯一難を言えばジュレがしょっぱかった。
全体に上品な酸っぱさなので、もっと薄味で良かったような・・・。
うるさい客である。
 【食事】
「鯛茶漬け」、「香の物」
 本格「鯛茶漬け」
久々に喰った気がする。
鯛がふんだんに乗って、贅沢な茶漬けである。
ちょっと気になったのは鯛の食感が柔らか過ぎた。
理由はよくわかんないけど、もうちょっとプリプリ感が欲しかった。
 それと、さすがにこれはしょっぱかった。
この街の味だなあ・・・って感じ。
一緒に出て来たほうじ茶で薄めて喰った。
これはこれで美味かったけど・・・。
 【水菓子】
「季節の果物」-「巨峰」、「ピオーネ」、「梨」、「柿」
 まさに旬の果物ばっか。
まあ、どうしたらこんなにいい素材を集められるんだか・・・。
一切れずつなんだけど、どれもチョー美味!
これ以上ないべってくらい、上品に甘かった。

 いやあ〜、びっくりした。
驚嘆の極みだった。
灯台元暗し・・・。
ご近所にこんなにイケる和食があったとは・・・。
ヤ、明らかに変わったんだと思う。
今まで、こんな好印象は無かったと思う。
 嫁さんの気まぐれが転じて幸せなディナーになった。
いい拾いモンだった。
人生、何が幸いするかわかんないなあ・・・。