珍しくもない本の雑感52(3)

  【神の子どもたちはみな踊る

  • クマの「まさきち」

 この最後の1編は特に面白かった。
阪神・淡路大震災」が底辺に流れてる事も忘れちゃうっくらい・・・。

 「まさきち」は蜂蜜とりが得意だった。
友だちの「とんきち」はシャケとりの名人だった。
2人は蜂蜜とシャケを交換して仲良く暮らしていた。
 でも、ある日シャケがまったく取れなくなってしまった。
「まさきち」は「とんきち」に蜂蜜を分けてあげた。
「とんきち」は言った。
「それじゃ君の好意に甘えることになる」
「そんな他人行儀なことは言わないでくれ。お互い様だ」
「僕らは友だちでいたい。与えられるだけの友だちはあり得ない」
 「とんきち」は山を下りる。
世間知らずの「とんきち」は猟師の罠に捕まってしまった。
「とんきち」は動物園に送られた・・・。

 「沙羅」がつぶやく・・・。
「かわいそうな『とんきち』・・・」

  • グループ

 「淳平」は西宮市に生まれそこで育った。
神戸の私立進学校から早稲田大学に進んだ。
商学部と文学部に合格し、迷わず文学部を選んだ。
でも、両親には商学部に入ったと報告した。
彼の望みは小説家になることだった。
 ん?
西宮・・・?
早稲田・・・?
小説家・・・?
それってひょっとして著者のこと・・・?
 クラスですぐに親しい2人の友だちが出来た。
「高槻カンちゃん」と「小夜子」だった。
大学1年生によくある小さく親密なグループが出来上がった。
「カンちゃん」は長野出身でサッカー部のキャプテンだった。
リーダーシップを取るタイプ。
「小夜子」は浅草の生まれ、知的な目をした娘だった。
 3人は大の仲良しだった。
いつも一緒に行動した。
でも、そんな関係は長く続かない。
ありがちなパターンだべさ。

  • オフ・バランス

 「カンちゃん」がいごいた。
「淳平」が夏休みで帰省中のことだった。
ふとした偶然で「小夜子」と深い仲になってしまった。
「でも、これまで通り、3人で友だちとしてつきあっていきたい」
「カンちゃん」の言葉は鉛のように全身に喰い込んだ。
 落ち込んでアパートで寝ていた「淳平」を「小夜子」が見舞った。

「何かをわかっているということと、それを目に見えるかたちに変えていけるということは、また別の話なのよね。そのふたつがどちらも同じようにうまくできたら、生きていくのはもっと簡単なんだろうけど」

「淳平」は「小夜子」が何を伝えようとしているのか理解出来なかった。
「小夜子」は泣いていた・・・。
 3人はその後も親密な関係を維持した。
大学卒業後、半年で「カンちゃん」と「小夜子」は結婚した。
30歳を過ぎて娘が生まれた。
3人がそれぞれ名前を考えた。
結果、「淳平」の提案した「沙羅」が採用された。
今度は4人のオフ・バランスの関係が続く・・・。

  • 擬似家族

 「沙羅」が2歳の頃に破局がやってきた。
「カンちゃん」と「小夜子」は正式に離婚することになった。
でもトラブルは一切なかった。
2人の間でいくつかの取り決めが結ばれた。
 「沙羅」は「小夜子」が引き取った。
「カンちゃん」は家を出て他の女性と一緒になった。
週に1度、「カンちゃん」は「沙羅」に会いに来た。
申し合わせで、出来るだけ「淳平」が同席することになっていた。
 「沙羅」は「カンちゃん」をパパと呼んだ。
そして「淳平」を「ジュンちゃん」と呼んだ。
4人は奇妙な擬似家族だった。
以前と同じように冗談を言い合い、思い出話をした。
4人にとってなくてはならない場だった。
 「カンちゃん」は「淳平」に言う。
「『小夜子』と一緒になるのはいやか?」
「どうして?」
「どうしてって、決まってるじゃないか・・・」
「そう言われても僕にはわからないよ」
「お前には永久にわからないよ・・・」

  • 動物園

 「沙羅」は「阪神・淡路大震災」のニュースを見た。
それ以来、夜中にヒステリーを起こすようになった。
「『地震男』が私を小さな箱に詰めようとしたの・・・」
震えて、泣き止まない。
 その度に「淳平」が呼ばれる。
「淳平」はクマの「まさきち」の話をしてなだめる。
こんな事を何度か繰り返した。
「淳平」が提案した。
「気分転換にクマを見に動物園に行ってみようか?」
「悪くないわね。うん、久し振りに4人で行こう」
 「カンちゃん」は出張でダメだった。
結局3人で動物園に行った。
「沙羅」は大喜びである。
「あれが『まさきち』なの?」
「いや、あれは『とんきち』なんだ」
「ジュンちゃん、『とんきち』のお話をしてっ!」
 「淳平」は苦し紛れに冒頭の話をした・・・。
「とんきち」は動物園送り・・・。
「かわいそうな『とんきち』・・・」
あとで「小夜子」が尋ねた。
「もうちょっと、みんなが幸せになるうまいやり方はなかったの?」
「まだ、思いつかないんだ・・・」

  • 蜂蜜パイ

 その夜、2人はごく自然に抱き合う。
「小夜子」が小さな声で言った。

「私たちは最初からこうなるべきだったのよ。
でもあなただけがわからなかった。何もわかっていなかった。シャケが川から消えてしまうまで・・・」

 「淳平」の頭の中にアイデアが芽を出した。

「とんきち」は思いついた。
「まさきち」の集めた蜂蜜を使って、蜂蜜パイを焼こう。
「とんきち」は練習してみると、才能があることがわかった。
かりっとした美味しいパイが焼けるんである。
「まさきち」はそのパイを町に持って行って人々に売った。
それは飛ぶように売れた。
「とんきち」と「まさきち」は山の中で親友として幸せに暮らした・・・。

 きっと「沙羅」はこの結末を喜ぶべ。
おそらく「小夜子」も・・・。
これまでと違う小説を書こう、と「淳平」は思った。
誰かが夢見て待ちわびているような、そんな小説を・・・。
 ん〜〜ん。
「治まる」ってヤツですか・・・?
何だべね?
どうも著者自信のことに思えちゃう。
体験談なのか、創造なのかわかんないけど・・・。
そ〜言えば、最近の作品は「沙羅」が喜ぶ方向かも・・・。