珍しくもない本の雑感52(2)

  【神の子どもたちはみな踊る

  • 二日酔い

 二日酔いの状態を言葉にするのはしんどい。
ってゆ〜かあ、思い出したくもない。
多分、「村上春樹」も何度か経験してるべ。
これほど巧い表現を他に知らない。

夜のあいだに頭の中が虫歯でいっぱいになってしまったみたいな感触があった。腐りかけた歯茎から汚い汁がにじみ出て、脳味噌を内側からじわじわ溶かしている。そのまま放っておいたら脳味噌はやがて消えてなくなってしまうだろう。

 もう少し眠っていたい。
でも、どうせもう眠れないべ。
眠るには気分が悪すぎる。
あ〜思い出したくない。

二日酔いで苦しい思いをしているときには、いつもテレビで朝のワイドショーを見るんだという友人がいた。そこに登場する芸能レポーターたちの耳ざわりな魔女狩りの声を聞いていると、前夜から胃の中に残っているものが、うまく吐けるということだった。

 巧いなあ〜っ。
確かにいつもそう思ってた。
二日酔いじゃなくっても吐き気がする・・・。
 「善也」は母親に水を持って来てもらおうとした。
が、母親はいなかった。
ボランティアで関西に出かけていた。
他の信者さんたちと一緒だった。
やっぱ、底辺に「阪神・淡路大震災」がある。

  • 神の子

 「善也」は母親とは18歳違い。
43歳だけど、30代半ばにしか見えなかった。
よく、姉と間違えられた。
いるんだよなあ〜、こういう母親って・・・。
 「善也」は神の子と教えられた。
父親は「お方」なんだと言い聞かせられた。
「お方」はお空の上にいる。
だから、いっしょに住むことは出来ない。
でも、いつも気にかけて見守っていらっしゃるってこって・・・。
 「導き役」の「田端さん」も同じ事をいう。
たしかに君にはこの世界のお父さんはいない。
でも、お父さんである「お方」は世界そのもの。
その愛の中にすっぽりと包まれている。
それを誇りに思って、正しく生きなきゃっ!
 でも、「田端さん」は死ぬ寸前に「善也」に言った。

「死ぬ前に君にひとつ言っておかなければならないことがある。
それは、私が「善也くん」のお母さんに対して幾度となく邪念を抱いたということだ。
私は君にそのことを誤りたい」

「善也」は言いたかった。

”謝ることなんかありません。邪念を抱いていたのはあなただけじゃない・・・。”

  • 更年期

 「さつき」はホットフラッシュに見舞われた。
身体中が火照って、汗が吹き出してくる。
更年期障害である。
「男の更年期」にとってはヒトゴトじゃないんだけど・・・。
 バンコクに向かう飛行機の中だった。
アナウンスが流れる。
「ときはただいまきりゅのわるいとこをひっこしております」
そ〜なんだよなあ・・・。
この辺りの日本語ってこんなんだよなあ・・・。
 「さつき」は思った。
ホンの100年前だったら寿命は50年もなかった。
人間はいたずらに寿命を延ばしすぎた。
これは神からのいやがらせだべさ・・・。

  • リゾッチャ

 国際会議のあと、「さつき」は休暇を取った。
リゾッチャで骨休めしようって魂胆である。
予約したリムジンの運転手「ニミット」は有能だった。
素晴しいリゾッチャ環境をセットしてくれた。
 「ニミット」が訊く。
「ご出身は日本のどちらですか?」
「京都です」
「京都は神戸の近くではないですか?」
「すぐ近くではないわ。地震の被害はそれほどじゃなかったみたい」
「それは何よりです。神戸にお知り合いは?」
「いいえ。神戸に私の知り合いは1人もいない・・・」
 ウソだった。
神戸には別れた「あの男」が住んでいた。
地震のすぐ後で男の家に電話をかけてみた。
もちろん繋がらなかった。
地震でぺしゃんこにつぶれていればいいのに・・・と思った。

  • 老女

 リゾッチャ最後の日に「ニミット」が言った。
「1時間ばかり、私に時間を下さい」
「さつき」は村はずれの貧しい家に案内された。
そこには老女がいた。
 彼女は「さつき」の手を取り、目をじっと見つめた。

「あなたの身体の中には、白くて堅い石があります。きっと長年にわたってそれを抱えて生きてきたのでしょう。あなたはその石をどこかに捨てなければなりません。
あなたは近いうちに、大きな緑色の蛇の出てくる夢を見るでしょう。その蛇を目が覚めるまで両手でしっかりつかみなさい。その蛇が石を飲み込んでくれます。
その人は死んでいません。あなたの望んだことではなかったかもしれませんが、あなたにとっては幸運なことでした。自分の幸運に感謝なさい」

 これは「ニミット」からの好意のしるしだった。
「さつき」はいつも心をひきずっているように見えると言う。
そのままでは、うまく死ぬことができなくなっちゃう。
これからはゆるやかに死に向かう準備をしなくっちゃ・・・。

「生きることと死ぬることは、ある意味では等価なのです、ドクター」

  • 「かえるくん」

 「片桐」がアパートの部屋に戻ると、巨大な蛙が待っていた。
3日後に、東京大地震があるという。
阪神・淡路大震災」よりも大規模な地震だという。
死者は15万人と推定される。
 地震の原因は「みみずくん」だという。
新宿区役所の近所の地下にいる。
大きさは山手線の車輌っくらいあるとか。
「みみずくん」は、ひどく腹を立てているそうだ。
すると大地震が起こる。
これは何とか阻止しなきゃいかんざきっ。
 「かえるくん」は「みみずくん」と闘うという。
ついては「片桐さん」に一緒に闘ってほしいという。
実際に闘うのは「かえるくん」1人でいいそうだ。
ガンバレっと声をかけてくれればいいとか・・・。
「片桐」は固まった。
そりゃ、ハトマメになるべや。
続きは又・・・。