まおの食欲の雑感81

  • 「パンの記念日」

 今日は「パンの記念日」だそうだ。
日本で初めてパンが焼かれた日らしい。
何と、我が故郷のご近所、韮山での話だと言う。
ちょとびっくり。
ここのおでーかん様「江川太郎左衛門」が屋敷で焼かせた。
1842年、今から160年ばっかし前のこった。
長崎のオランダ屋敷で技術を覚えた職人を呼んだとか。
ふう〜〜〜ん・・・。
 パンと言えば、お坊ちゃまである。
大好物だった。
朝メシでパンを喰ってると激しいおねだり。
「きょほっ、きょほっ!」
すぐ横に来て、足にすがりつく。
すっかり哀願犬だった・・・。
 んな〜んて感傷に耽ってるヒマはない。
今は、介護に全力投球である。
他にお坊ちゃまにしてやれる事はないべや。
つらいと言えばつらい・・・。
身体じゃない。
肝がつらい・・・。
これがニンゲンだったら・・・ゾッとする。
絶対に、嫁さんより先に死んでやる!

  • 熟練

 何事も習うより慣れろ!
介護生活も慣れてくるモンである。
今朝は、いつもより30分早く起きてみた。
いつもの儀式をこなす。
オシッコシート・水の交換、尿カテ、投薬・・・。
あれっ?
時間が余っちゃった。
だんだん手際が良くなってくるんだべな・・・。
 いろいろコツがわかってきた。
緩急をつけることが出来るようになった。
もう1つは嫁さんとのコンビネーションだべな。
2人でず〜っとハイテンションじゃ、両方とも参っちゃう。
テキトウに補い合って気を抜く・・・。
 介護されるお坊ちゃまも大変である。
2人がかりであれだ、これだ・・・。
決して嬉しくないべな・・・。
なんて悠長な事、言ってる場合じゃなかった・・・。
・・・・・・・・・・・。

  • ・・・

 あまりにも突然だった・・・。
お坊ちゃまは突然、星になっちゃった・・・。
・・・・・・・・・・・。
 「わんわんわんわんっ!」
お坊ちゃまが突然、鳴き出した。
異様な鳴き方にパソ子の前で飛び上がった。
嫁さんも駆けつけた。
「まおちゃん!どうしたの!」
眼が踊ってる。
急いで酸素吸入の準備をした。
「あ゛〜〜っ!」
突然、お坊ちゃまがヘンな声を上げた・・・。
手足を突っ張ってる。
っと思ったら急に身体からチカラが抜けちゃった。
 「『F沢先生』に電話してくれっ!」
嫁さんが、電話する。
こんな時に限って話中・・・。
「もういっぺん、かけてくれっ!」
繋がった。
「すぐ、連れて来て下さい」
着の身、着のまま、クルマを飛ばした。
周りのクルマのあまりの遅さに腹が立つ。
”ちっくしょ〜っ!このグズどもがあ〜っ!”
悔しくって、景色が歪んできちゃう。
 「ドクターF沢」は診察室を開けて待っててくれた。
夜も10:00近いのに・・・。
すぐに心電計をセットしてくれた。
聴診器を当てる。
胸の辺りを何度か押す。
でも、表示は動かなかった・・・。
「残念ですが・・・」
・・・・・・・・・・・。

  • お通夜

 ・・・覚悟はしてたつもりだった。
でも、アタマは真っ白。
「お役に立てませんで・・・」
ドクターの言葉だけが耳に残った。
ちゃんと十分にお礼を言ってきたんだべか?
帰りのクルマの景色はもっと歪んで来た。
危ないっつーに!
 嫁さんと2人でお通夜をした。
急造りの焼香台を置いて花を飾った。
お坊ちゃまはいつものベッドの中で寝ている。
ホントに寝てるようにしか見えない・・・。
いろんな思いがぐるぐる廻ってる。
 まおちゃん、きっと幸せな一生だったよな・・・。
病気は不運だったけど、やっと楽になれたんだよな・・・。
どんなにお礼を言っても尽くせないけど・・・。
ニンゲンはめっちゃ幸せだったよ。
たくさん、たくさん、癒されて、救われて・・・。
どれだけ助けられたことか・・・。
 もう、頑張らなくっていいんだよな。
強制給餌もクスリも要らなくなったよな。
安らかに眠ってくれよな。
ホントに14年間、ありがとう・・・。