珍しくも無い本の雑感41(5)

  【小説 上杉鷹山

  • 賄賂

 「マイナイ」っと読むらしい。
何かいい響きである。
「ワイロ」って言うと汚いイメージだべさ。
「マイナイ」は「越後屋、オヌシもアクじゃのう〜」の世界である。
ちょっと優雅な雰囲気が・・・。
 考えようによってはこれも美しい伝統文化だべさ。
人間関係の潤滑油とか・・・。
モノは言いようである。
「官製談合」と何も変わらんべや。
 江戸の老中首座「田沼意次」が登場する。
ヒラの侍から8代将軍「吉宗」の引きで大出世した。
このオッサンが「マイナイ」大好きニンゲンだった。
成金にありがちな・・・。
田沼意次」の理屈は明快だった。

「人間にとって、金銀ほど大切なものはない。みんな、大切にしている。その大切なものを他人に贈ろうというのだから、これは誠心(まごころ)だ。従って、私は賄賂を沢山持ってくる人間を重く用いる」

わっかりやす〜い。
誕生祝いのケーキを着払いで返送する宰相とえりゃあ違いだ。

  • クーデター

 江戸は空前の賄賂ブームになったらしい。

「役人の子はニギニギをまずおぼえ」

こんな歌が流行ったとか・・・。
でも、「治憲」はガンとして賄賂なんぞ贈らない。
重役はヤキモキする。
「私は幕府に頼ろうとは思ってない。頼るのは米沢藩の人間全てだ」
ひょえ〜〜っ!
 重役7人衆が遂にキレた。
「もう、我慢できん!」
ウサ晴らしの冊子を作って反乱を起こした。
藩士全員がこの改革に本音では反対であると言い切った。
その上でなお改革派を選ぶのか?
改心して元の体制派に委ねるか?
二者択一を迫った。

  • 審判

 これにはさすがの「治憲」もキレた。
先代「重定」もキレた。
藩士全員を集めて訊いた。
大目付などの監察役人も一緒だった。
公正な審判である。
「重役7人衆が言う事は本当か?本当なら私は九州へ帰る・・・」
 次々と声が上がったそうだ。
「重役の意見は間違っています」
「我々は改革に賛成です」
「どうか、このまま改革をお進め下さい」
 翌日、もう一度藩士全体会議が開かれた。
「過って改むるに憚ることなかれ、が私の信条だに・・・」
っと今一度、本音の意見を求めた。
皆の意見は同じだった。
「・・・ありがとう。礼をいう・・・」
「治憲」と「重定」が深々と頭を下げた。
二人とも目に涙を浮かべていたそうな・・・。
 気づいた全藩士は平伏した。
そして多くの肩が嗚咽でふるえていた。
何て、感動的な場面じゃあ〜りませんか!

  • ウルトラショブン

 7人衆には厳しい判決が出た。
2名は切腹、5名は隠居・閉門・知行召上げ。
藩主を騙そうとしたんだから、しゃーない。
でも、今まで怒った事も怒鳴った事もない藩主の処分である。
藩内は動揺したらしい。
 これが改革成功の決定的な要因になった。
何だ、このヒト、やる時ゃやるじゃん。
なめたらあっかん〜。
これで一気に藩内が本気モードになったんだべな。
 ウルトラ処分の7人衆にはセガレがいた。
ま、しょーもないドラ息子だった。
でも、のちに「治憲」はこのセガレどもを登用する。
親のカタキ、恨み骨髄の藩主から声が掛かる。
そりゃ、迷うべな〜。
 「治憲」は水に流せなどという安易な事は言わなんだ。

「過去を忘れよ、とは言わぬ。いや、忘れてはならぬのだ。あの事件を互いに強く胸に刻んで、新しい生きかたを探そう」

いやあ〜、なかなか・・・。
続きは又・・・。