珍しくもない本の雑感34

  • 清涼感

 何だべ?
この読後感・・・。
近来稀に見る清涼感・・・。
ナンとも気持ち良かった。
 タイトルは「サウスバウンド」
著者はあの「奥田英朗
元々は2001年から「KAD0KAWAミステリ」に連載されてたらしい。
その後、第二部を書き下ろして出版。
今年の6月30日初版だった。
 著者は1959年、岐阜で生まれた。
ってえこと以外、何も紹介が無い。
正体不明である。
世代的には近い。
98年に作家デビューって言うから早くはない。
でも、大藪晴彦賞とか直木賞とかも取ってる。
才能ってのはあるとこにはあるモンだ。

  • 子ども

 「空中ブランコ」は笑った。
イン・ザ・プール」も面白かった。
思わず笑っちゃうんだけどナンか爽やかだった。
ヒトの気持の捉え方がめっちゃ巧い。
ホントに心理学を専攻してるんじゃないかと思った。
 ドクター伊良部は驚異のキャラだった。
読んでいると故郷・沼津の友人が頭に浮かんで来る。
浮かんでから絶対に拭えない。
キャラ的にソックリなのである。
 今回はこんな特異的なキャラは登場しない。
でも、巧いセッティングなんだよねえ・・・。
主人公は小学生の子どもである。
父親は元過激派の活動家。
母親も元過激派のマドンナ。
主人公と両親とのやり取りが面白い。
 ついこないだ、「海辺のカフカ」を読んだ。
やっぱ、中学生の子どもが主人公だった。
でも、この子どもはあり得ないと思った。
奥田んちの子どもはあり得る。
いかにもそこらにいそうな子どもである。
子どもの心理描写ではきっと軍配が上がるかも・・・。

  • 後味

空中ブランコ」も「イン・ザ・プール」も共通点があった。
後味がいいのである。
どんなにドタバタでも、最後に爽やかにしてくれる。
何だかニンゲンっていいなあ・・・なんて思わせちゃうところがある。
憎たらしいくらいである。
 「サウスバウンド」もその延長線上にあるかも・・・。
ヤ、もっと気持ち良かった。
何度も痛快な気分にさせてもらった。
相変らずヒトの気持を掴むのが巧い。
更にブラッシュアップした感じかなあ・・・。
 子どもの世界にもいろいろある。
大人にはわからないややこしい人間関係もある。
子どもにしておくには惜しいラピンチ予備軍だっている。
こんなのはいつの世にもいる。
ちょっと眼をつけられるとややこしい。
 どうやってこの苦境を脱するか?
子どもなりに考える。
蹴られたり、殴られたりしながら模索するっきゃない。
でも、結局最後には解決しちゃった。
その痛快な事!

 物語の第一部の舞台は東京・中野である。
そしてハラハラさせられながらも最後に痛快になれる。
第二部の舞台はいきなり八重山である。
このギャップが又いい。
 八重山を舞台にしての話は又、面白い。
完全にハマってしまった。
景色が眼に浮かんでしまう。
むしょうに行きたくなってしまった。
 主人公は小学校の教室で挨拶も出来ずに沖縄に飛ぶ。
友だちと別れを惜しむヒマもなかった。

でも、悪くなかった。センチになるのは、いつも大人たちだ。
子供には、過去より未来の方が遥かに大きい。センチになる暇はない。

そうかも・・・。

  • 「ユイマール」

 何のこっちゃ?
「ユイマール」ってのは相互扶助の習慣のことらしい。
主人公の家族はある日突然八重山に飛んだ。
東京で全ての家財を売っ払った。
身体1つで八重山に行って生活する事になった。
 全てがもらいモンである。
何から何まで村のヒトビトが持って来てくれる。
家は廃屋をみんなで修繕してくれた。
喰いモンも毎日何かが届く。
 電気は無い。
ランプの生活である。
井戸水を汲み上げて生活用水にする。
「メヘヘッ・・・」
ヤギもいる。
い〜なあ〜・・・。
めっちゃ癒された一冊だった。