和食屋の雑感Ⅵ

  • 「伊豆の味処」

 親孝行プチブルツアーの最後は和食である。
店の名前は「錦」
暖簾に「伊豆の味処」と銘打ってある。
何かの雑誌でも紹介されたそうだ。
いつもすごい混雑なんだとか。
次男坊は仕事の関係でちょくちょく来たらしい。
 そんなに広い店じゃない。
小さな入り口でカウンターが10席くらい。
後は、小上がりでテーブルが4台。
無理に詰めても30人くらいかな・・・。
 もう、時間が遅いので席は空き始めていた。
小上がりのテーブルを2台占領してゆったりと座る。
隣のテーブルではマダム連が食後の一服。
「タバコ臭いから端っこに行くよ」
「アタシだって臭いから端っこがいいわ」
聞こえよがしである。
マダム連は早々に引き揚げて行った。

  • 観光客メニュー

 店に着いたのは14:10頃。
オーダーストップは14:30。
デザートまで含めて一気に全部オーダーしなきゃなんない。
とりあえず生ビールを2つ。
生ビールは630円。
いいお値段である。
【サザエのつぼ焼】を2つ頼んでから検討開始。
サザエは初島港で火が着いちゃった。
張り紙にサザエは100g:400円と書いてあった。
ま、良心的かな・・・。
 メニューを見てひっくり返った。

【磯物定食】 前菜、つぼ焼、焼魚、刺盛で3,675円
【刺天定食】 そのまんま刺盛と天ぷらで3,150円
【貝ちらし丼】 いろいろ生貝たっぷりで3,150円
【うにさざえ丼】 そのまんまウニとサザエたっぷりが3,150円
【海の幸丼】 地魚、生貝、甘エビ、ウニ、イクラで2,940円
【いかいくら丼】 地イカたっぷり、イクラにウズラ卵付きで2,625円
【磯納豆丼】 地魚、生貝、ウニ、イクラ、納豆に卵黄付きで2,100円

 いかにも観光客が喜びそうなメニューである。
でも、いいお値段である。
地元のニンゲンはこんなに出して喰わねえべ。
これだけ出せば銀座でも喰えそうな気がするけど・・・。

  • オーダー

 高っけえ!
全員、暗黙の共通認識だったようだ。
みんな観光客メニューに見向きもしない。

ば〜ばは【天丼】 海老、明日葉、茄子・・・などで1,365円。
じ〜じは【鯵のたたき丼】 鯵たたきのてんこ盛りで1,575円。
次男坊は【磯納豆丼】だけ。

次男坊は残りモノに備えてる。
どうせ、みんな喰いきれないと読んでる。
 キリギリス夫婦はビール飲んでるし・・・。
「そんなに沢山要らねえよなあ・・・」
「でも、いいじゃん。余れば誰か喰うよ」
ってな訳でつまみ主体である。

【鯵たたき丼】は名物だってんでオーダー。
単品【アナゴ天ぷら】700円。
単品【桜海老天ぷら】1,000円。
あとはライスセットを1つ。

 随分、客単価は安かったべな。

  • 名物

 確かに【鯵たたき丼】はちょっと名物らしさがあった。
ハッタリが効いてた。
ドンブリメシに刻み海苔を敷いた上に鯵たたきが乗ってる。
フツーは実にシンプルなドンブリメシである。
 売りは鯵たたきの多さ。
底辺10cm×高さ15cmの三角錐がド〜ンと乗ってる。
この大きさでびっくりさせようって魂胆らしい。
味はフツーのたたきである。
強いて言えばちょっと醤油とショウガが多めで濃い。
この方が観光客ウケするんだべな。
 味は全体に濃かった。
イマ風なんだべね。
ハッタリと濃い味でわ〜っと済ませちゃう。
きっと勢いだけで喜んで喰ってく客が多いんだべ。
 楽しみにしてた【サザエのつぼ焼】も濃かった。
もっと素朴なつぼ焼が喰いたかったなあ・・・。
普通なら飲んじゃう中の煮汁もタマリ醤油みたいだった。
何だかなあ〜。

 我々はジモティである。
伊豆半島の反対側っつーだけである。
子どもの頃から地の海の幸を喰って育った。
幸っつっても安い地魚ばっかしだけど・・・。
鯵のヒラキは一時恐怖症になったくらいである。
 鯵のたたきも良く喰った。
こんなモン代表的ローコスト家庭料理である。
新鮮な鯵とネギとショウガがあればOK。
庶民の味である。
どうしてもこの料理とこの値段が噛み合わない。
 半島の反対側でも魚料理屋は多い。
似たようなモノも喰えると思う。
でも、値段はもっと庶民的な気がするなあ・・・。
やっぱ東海岸は東京を見てるんかな?
 サザエなんかも素朴な喰いモンである。
子どもの頃はちょくちょく喰った気がする。
浜辺で焚き火して焼いて喰った事もある。
海水の塩っ気だけでも喰える。
焼き上がる寸前に醤油をジュッとひとさし。
これがたまらない。
もう、こんなのに出会える可能性は無いかな・・・?

  • 親孝行ツアー

 こうしてツアーは終わった。
結局、この店の支払いはば〜ばがした。
次男坊は遂に全額免除である。
ま、予約係や世話役兼運転手という事で・・・。
 熱海の駅で三島勢と別れた。
電車は通勤・通学の客で結構混んでいた。
そう言えば今日は月曜日だったんだ。
家に帰ったら仕事モードに戻さないと・・・。
やれやれ・・・。
 夜、次男坊から電話が来た。
全額免除の御礼である。
確かにホテル代にはいろんなモンが入ってた。
レンタル水着代から耳栓、家族への土産代・・・。
ルームチャージすれば当然である。
ちょっと恐縮した風だった。
ま、い〜じゃん。
 「ところでさあ・・・」
と切り出した。
「何だよ?」
「ば〜ばが正月にエクシブに行きたいって言ってんだけど・・・」
「へ・・・」