珍しくもない本の雑感29

  • 文庫本

 やっと文庫本が発売された。
さ〜て、やっと読めるどってんで買ってきた。
かれこれ2年も待ってた。
「Kafka on the Shore」-「海辺のカフカ」である。
 気になるよなあ・・・。
小憎らしいタイトルだよなあ・・・。
カフカねえ・・・。
誰もが一度は「変身」に引っかかってるべなあ・・・。
えっ?
何なんだ?
最初に読んだ時は自分の中で整理が出来なかった。
でも、止められなかった。
あっけにとられながらはまっちゃうみたいな・・・。
 プラハに行った時、カフカの家を見た。
オモチャみたいな小さな家だった。
ここであの「甲虫」の発想が生まれたのか・・・。
どういう思考回路なんだべ?
 帰って来てからもう一度「変身」を読んだ。
どうしても読みたかった。
最初に読んだ時の消化不良が幾らかすっきりした。
やっぱ子どもの本じゃないよ・・・。

  • タイトル

 何たってカフカである。
タイトルだけで売れるだろうなって気がする。
さすが「村上春樹」である。
チョー売れっ子である。
この街の税務署の大のお得意さんである。
チョー大口のお客さんである。
税吏も盆暮れのつけ届けっくらいしてんだべな。
 1つ、勉強になった。
カフカってチェコ語で「カラス」のことなんだって・・・。
主人公は「田村カフカ」って名乗ってる。
自問自答で、カラスと呼ばれる少年としょっちゅう会話する。
確かに子どもの頃、自分自身と会話するモンなあ・・・。
これほど小難しくは考えないかも知んないけど・・・。
 ま、やっぱし面白かった。
裏切られなかった。
さすがと言うっきゃない。
まったく非の打ち所が無いほど面白かった。
こんな世界を描ける作家は他に知らない。
 もう1つ良かったことがあった。
何ったって字がでかい!
これはとっても嬉しかった。

 15歳の少年はタフになりたい。
って言う設定なんだけど・・・。
でも、ちょっと無理がある。
この「田村カフカ」くんはめっちゃタフである。
つくづく思った。
大人が子どもの事を描くのは大変だ。
しかも海千山千で揉まれ抜いた大人は特に大変だ。
 子どもの頃にどう感じたか?
大人になってからはまったく思い出せない。
子どもの頃の思考回路なんてキレイに忘れてる。
でも、それを描くのである。
かなり大変だと思った。
 「田村カフカ」くんはタフである。
そこらに転がってる大人よりはるかに人間が出来てる。
受け答えだってハリウッド映画の会話に負けない。
オシャレでウィットに富んで小賢しい。
こんな15歳とは絶対にお会いしたくない。
きっと、人生を3倍以上も生きてる自分が惨めになっちゃう。
っていうくらい子どもを描くのは難しい。

  • 非日常

 何故、「村上春樹」は面白いのか?
よくよく考えてみると意外に簡単な事だった。
このヒト、非日常を書くのが巧いんだ。
まさにチェコカフカと共通してるかも知れない。
 まったく自然なんだ。
涼しい顔して非日常の世界が描かれている。
そんでいつの間にか誘い込まれる。
やられっちゃうんだよなあ・・・。
 いつの間にかネコさんと会話してるナカタさんがいる。
ナカタさんはヒルを降らせる。
サカナも降らせる。
ナカタさんのキャラは飛び抜けてる。
この本の登場人物の中では群を抜いてる。
一度お会いしたら、二度と忘れられないべな。
いつの間にかどっかの世界に飛んでっちゃう。
ん〜〜ん、見事じゃ!

  • 「メタファー」

 何度もおっと思うような表現がある。
これが25年かけて身に付けて来たと言う文章の技法だべ。
確かにどんどん洗練されてる気がする。
しかも読み易い。
文章が巧いって事なんだべな。
 何回も出て来て気になったセリフがあった。
「メタファー」である。
何のこっちゃ?
早速、NETで調べた。
どうやら比喩のことらしい。
幾つかヒットした記事に共通の説明が載ってた。
 それは「メタファー」の例示。
「目玉焼きは目玉ではない。これは『メタファー』である」
っという文章だった。
つまり目玉焼きは卵であって眼球ではない。
ものの例えで表現する事を「メタファー」というらしい。
そっか!
それで「メタファ焼き」って言うんだ・・・。
 他にもいろいろありそうだ。
「メロンパンはメロンではない。メタファーだ」
「人形焼きは人形ではない。メタファーだ」
「鉄砲汁はテッポではない。メタファーだ」
喰いモンしか浮かんで来ないところが哀しい・・・。

  • 長編

 「村上春樹」はごく最近、新作を出した。
東京奇譚集」という短編集である。
相変わらずご活躍である。
又、何年かして文庫本だ出たら読ませて頂こう。
 でも、短編は久しぶりらしい。
何で今回は短編だったんだべ?
短編ももちろん面白い。
全体的によく出来てて、ソツが無い。
でも、やっぱこのヒトの真骨頂は長編みたいな気がする。
現にこの前まではずっと長編が続いていたそうだ。
箸休めだべか?
 長編はずっしりと読み応えがある。
中でも「ねじまき鳥クロニクル」は秀逸だった。
今でも内容をはっきり覚えている。
強烈だった。
海辺のカフカ」はあの強烈な印象と比較しちゃうとちょっと・・・。
何となくパワーが違う気がする。
さすがの「村上春樹」もしんどくなったかな?
みたいな・・・。