葬儀のこと

  • 訃報

 去年、定年退職した先輩からメールが届いた。
訃報だった。
86歳になるご尊父が逝去されたそうだ。
迷ったらしい。
元の会社のヒトビトに知らせるべきか・・・?
悩んだ挙句、ウチにメールが来た。
 迷惑をお掛けするのが明白で申し訳ないと記されていた。
気を使わないで欲しいなんて言うと矛盾してるとも書かれていた。
複雑なんだべね・・・。
もう定年退職したら関係ないと言えば関係ない。
でも、まったく関係ないのも寂しい。
せめて懇意にしてたヒトビトには会葬して欲しい・・・。
って感じなんだべか・・・。
 サラリーマンの哀しさかな。
リタイアした瞬間から社会のリスタートなんだべな・・・。
親戚縁者はいるべ。
よっぽど変人以外は一族郎党の付き合いはあるべ。
ご近所付き合いもあるべ。
後はそれ以外に何があるか・・・?
定年退職は人間関係がリセットされるんだべね。

  • 伝達

 それはそうと、伝達は難しい。
いろんな事を考えてしまう。
必要なヒトをもらす訳にもいかない。
何で教えてくれなかったとか恨まれたりして・・・。
その逆もありそうだ。
やたらに伝達するとヒトによっては恨みを買いそうな気もする。
いざ承ってしまったはいいけど、結構疲れた。
 いろんなヒトがいる。
万難を排して駆けつけるヒト。
香典の立て替えを頼まれるヒト。
弔電を手配するヒト。
「知らせてくれて有難う」と言って黙殺するヒトもいる。
人間模様は難しい。
 感心させられた事もある。
先輩も現役の頃には義理堅い方だった。
いろんなヒトの葬儀には必ず吹っ飛んでった。
心遣いしてもらったヒトは恩義があろうと勝手に想像してた。
でも、シカトするヒトもかなりいた。
 やっぱ改めて痛感した。
現役の時の付き合いはリタイアするとリセットされる。
義理も人情もキレイにリセットらしい。
定年退職は人間関係のリセット。
ゼロから再起動しなきゃいかないんだ。

  • 告別式

 今日、告別式に行って来た。
場所は町屋斎場である。
何となく名前を聞いた事がある。
結構、有名なんじゃなかんべか?
 なかなか風情のある街だった。
地下鉄駅を出ると路面電車が走っていたりする。
狭い路地が多く、ヒトがいっぱいいる。
MHKの朝ドラの「ココロ」の世界かも・・・。
 さすがに今日は会社の知った顔はなかった。
昨日の通夜に結構なヒトが来たらしい。
最近は告別式の会葬者は通夜の1割だそうだ。
忙しいヒトが多いんだべねえ・・・。
 比較的空いていたんで、先輩もすぐわかったようだ。
合間を見てカサカサと傍によって来た。
「迷惑掛けたねえ・・・。お陰様で大勢来てもらって・・・」
えりゃあ感謝された。
ホントに嬉しかったらしい。
うるうるしてた・・・。

  • 順番待ち

 町屋斎場はでかかった。
一度に10家族くらいの葬儀をやってる。
間口2〜3間の式場がズラ〜っと並んでいる。
隣の式場とはパーテーションで分けられてる。
当然、時間制・入れ替え制である。
 ドアを開けると受け付けの手前にカードとペンを置いた台がある。
銀行やJRの定期券売り場みたいである。
受付のちょいと先に焼香台がある。
その奥が祭壇と親族の席。
上人さんが読経の最中だった。
親族席には左右に20人くらいずつが2列に座っている。
一般会葬者とは完全に分離されている。
ふ〜〜ん、都会の葬式ってこういうんだ・・・。
 先輩のご尊父が逝去されたのは木曜日だった。
何と4日前である。
とにかく混んでるんだそうだ。
順番待ちでこれっくらいが当たり前になってるとか。
業者も心得たモンでちゃんと冷蔵設備を用意してるそうだ。
ある面、感心した。
 やっぱ死ぬヒトが増えてるんかな。
何かの本で読んだ。
日本人の寿命は今までひたすら延びた。
もう限界まで来てる。
これから今までのツケも含めてバタバタとヒトが死ぬ。
そして一気に人口が減少する・・・。
何だか現実味があるなあ・・・。

  • 喪主

 斎場には案内時間の5分前に到着。
でも、何だか読経が始まっていて遅れてったような雰囲気だった。
香典とカードをセットで出すと香典返しの引換券をくれる。
そのままロビーに案内された。
ご会葬の方は暫くお待ち下さいって事らしい。
 何だかんだ40分くらい待った。
そして一般会葬者の焼香があった。
この時に初めて親族の顔を見ることが出来た。
 そしてこの後ちょっとした模様替えがある。
親族も一旦、ロビーに追ん出される。
先輩はこのすき間を見繕って寄ってきた。
義理堅いことである。
 その後は花を添えて出棺まで同じ部屋に入れた。
イスが片付けられて全員立ってるからである。
最後に喪主の挨拶があった。
そっかあ・・・。
先輩は喪主だったんだよなあ・・・。
 現役の時の先輩はえりゃあ挨拶上手だった。
急なご指名でも涼しい顔してしゃべった。
その先輩でも今日はボロボロだった。
ご尊父は8年半前に脳梗塞で倒れた。
以来、病院を転々としながらの入院生活だった。
随分苦労してた。
いろんな記憶が蘇えって来るんだべなあ・・・。
 「86歳じゃお祝いだ」
良く聞くセリフではある。
実のセガレでも言ったりする。
でも、そりゃその場の勢いの話だんべ。
本気で親の死を祝う子どもなんかいるもんか・・・。

  • 工場

 霊柩車が来た。
男衆が棺をかついでクルマに乗せる。
先輩は助手席に座る。
会葬者が合掌する中をクルマが出て行く。
長いクラクションが響く。
 式場の係員が何か言ってる。
「火葬場の方にご移動願います」
火葬場?
移動?
皆さんがゾロゾロと移動を始めた。
何と同じ建物の中に火葬場があるんだ。
ふえ〜〜〜っ。
すんげえ〜〜。
ほとんど1つの工場みたいなモンだ。
 さすがに親族でもないのにそこまでは遠慮するべ・・・。
1人で出口の方に向かって歩き出した。
すると正面から霊柩車がこっちに向かって来る。
見ると助手席に先輩が座ってる。
霊柩車は辺りをひと回りして戻って来たんだ。
笑う訳にはいかないので目礼だけした。
 でも、隣の式場からは台車に乗せた棺が運ばれてた。
会葬者と一緒に火葬場に向かうらしい。
それも何だかなあ・・・。
台車でガラガラもなあ・・・。
そんなら霊柩車でひと回りの方がいっか。
随分、いろんな事を考えさせられた告別式だったなあ・・・。