珍しくも無い本の雑感23

  • 異色

ちょっと風変わりな本に会った。
多分、新聞の書評か何かで見つけたんだと思う。
ちょっと前に「積んどく在庫」に加えてあった。
今年は年初からいろいろ騒がしい。
原因は第二次世界大戦終結60周年だろう。
世界中で事ある毎にイベントがある。
同時にいろんな意見が飛び交う。
中国・韓国もすごい盛上りだし・・・。
ジュンちゃんも常軌を逸したガンコさ加減だし・・・。
遂に「靖国参拝は他国が干渉すべきじゃない!」
あ〜あ、言っちゃった。
ノリが軽いよなあ・・・。
こんなタイミングに読んでみる価値がありそうな1冊だった。

  • 60年前

タイトルは「敗戦真相記」
著者は「永野護」氏。
1890年生まれ。
115歳ならすごいけど、さすがに1970年に亡くなってる。
広島県出身で、帝大卒。
渋沢栄一の秘書になり、実業界へ。
証券会社などを経て1956年に衆議院議員当選し、政界へ。
1958年に第二次岸内閣の運輸大臣
兄弟も政財界でそろって活躍し、「永野兄弟」として有名とか。
ふう〜〜ん。
この本は1945年11月に書かれた。
内容は同年9月に広島で講演した内容をまとめたモンである。
要するに終戦の1ヶ月後に話されたこと。
今から60年前に1日本人が投げ掛けたことだ。
ちょっとびっくりする内容だった。

  • 反省と努力

一番びっくりするのはその冷静な分析。
敗戦直後の混乱状態なのに実に理路整然と論じられている。
おおまかに言えば、日本人は反省すべきところはしよう。
そして反省と努力で文化的大国を再建しよう、と言ってる。
本の構成はこんな感じ。

    1. まえがき
    2. 戦争はどのようにして起こったのか
    3. どのようにして戦いに敗れたのか
    4. 「科学無き者の最後」
    5. 日本における陸軍国と海軍国
    6. ポツダム宣言の政治性を読む
    7. 米英中ソ、四ヶ国の行方を見る
    8. 日本の将来はどうなるか
    9. 『敗戦真相記』を読むための人物・用語解説
    10. 解説『敗戦真相記』を読む  田勢康弘

とっても親切なことに人物・用語解説が充実してる。
詳しい解説にナンと46ページを費やしてくれてる。
これは有り難かった。

  • 情緒的風土

考えてみると確かにこの答えを聞いた事はない。
「なぜ日本は戦争にやぶれたのか」
イコール戦争責任って話になるから誰も触れないらしい。
臭いものにはフタにかぎる。
如何にも日本人らしいかも・・・。
この本の分析はすんごくわかりやすい。
著者は冒頭に言ってる。

日本は戦争に負けた。
でも、みんなの胸の中に割り切れない感情が残っている。
勝負には負けたが相撲には勝っていたんじゃないか?
もう一遍、相撲を取れば相手を投げられるかも・・・。
こんな気持をもっていやしないか?

実はこれが非常に危険な気持だ・・・と。
これは第一次世界大戦後のドイツ人の気持と同じだとか。
うなづけるなあ・・・。
いまだに「敗戦」って言わないもんなあ・・・。
あくまで「終戦」だもん。
情緒的なんだよねえ・・・。
案の定、敗戦から40年後にはバブル真っ盛り。
「もはやアメリカから学ぶものは何もない」と言い出した。
図に乗ってロックフェラーセンターを買って非難轟々。
そしてバブルが崩壊した今でも思ってる。
きっとまた土地も株も暴騰するに違いない・・・。
懲りないんだよねえ・・・。

  • 根本的原因

著者は戦争の根本的な原因は「国策の間違い」だと言ってる。
それは「日本だけ栄える」という考え方。
大東亜共栄圏」を名目に自給自足体制を作ろうとした。
日本は資源を持たない。
じゃ資源のある国を併合すりゃあええがね。
このジコチューな考えが戦争の原因だった。
東條軍閥の戦争責任云々とか個々の問題じゃないと言ってる。
何であれ「国策」、国民の総意。
占領下の国民を虐げれば必ず反感が高まるに決まってる。
戦後生まれから見たらそんなこと当ったり前に思えちゃう。
にもかかわらず乱暴狼藉の限り・・・。
最初っから全然「共栄」なんて気持は無かったのかなあ・・・。
昔の日本人ってジコチューなんかいないイメージだったのに・・・。
加えて日本の特殊事情があったとか。

    1. 日本の指導者がドイツの物真似をした。明治以来の軍閥官僚はドイツ本位で進めてきたが、ドイツ同様、卓越した民族という誤った意識がナチス・ドイツへの心酔につながった。
    2. 軍部が己を知らず敵を知らなかった。近代戦の実態も英米の事情も知らず精神力を過大評価した。軍部の独善主義は幼年学校教育にあり、極端な天皇中心の神国選民主義がある。
    3. 世論本位の政治を行わなかった。新聞までが主張を封じられた。社会全体が憲兵の監視の下で生活するような空気であった。

この戦争の発生原因それ自体に敗北の要素を内在している。
と著者は断言している。
更に不幸な事に日本有志以来の大人物の端境期だった。
人物飢饉の時期に建国来最大の危難に当っちゃったとか・・・。
う〜〜〜ん。
それってあまりに人任せじゃない?
今だって大人物どころかフツーのリーダーだって不足してるし・・・。

  • 敗因

よく「日本は負けるべくして負けた」とか言われる。
でも、理由が漠然としててよくわからない。
著者の敗因についての冷静な分析はすごい。

    1. 「戦争目的」がコロコロ変わった。大義名分が無く、国際社会に説得力がないばかりか、日本人でさえ戦争目的を理解出来ていなかった。「打倒!鬼畜米英」の精神論のみだった。
    2. 諜報能力があまりにも違い過ぎた。日本の情報は全て筒抜けなのに、日本が手にする情報は数ヶ月遅れの雑誌「ライフ」程度でアメリカの考え方を量っていたとか。又、戦争が始まって米国には日本語研究所がわんさか出来たが、日本では「敵性語」だとして英語を教科書からも駆逐してしまった。
    3. 軍指導者が権力で強引に総力戦に持ち込もうとしたため、国民の間に一種の反感が生まれた。終戦直前の徴用や学徒動員での工場の出勤率は6割以下に落ち込み、重要な軍需工場でも2〜3割というところもあった。終戦後はこれが一気に90〜95%に跳ね上がった。
    4. 日本に決定的な打撃を与えたのは「レーダー」の出現だった。米軍の爆撃機は闇夜でも正確に爆弾を投下し、正確な写真を撮っていた。「レーダー」のために特攻隊の勇士をどれだけ死なせたかわからない。
    5. 最後の止めを刺したのは何と言っても原爆。広島の原爆投下の報告を聞いた日本の専門家たちは「技術的に出来るはずがない」と容易に信じなかったという。科学技術の差は歴然としていた。
    6. 目に見えないがもっと戦局に影響を及ぼしたものはマネージメントの差である。官僚的で科学的マネージメントがゼロだった為に資材・人材の活用がまったく出来ていなかった。象徴的なのはアメリカで流された「東京大空襲」のニュース映画のタイトルが「科学無き者の最後」だったという。
    7. 科学能力の無さと並んで致命的だったのは陸海軍の内紛だった。これは日本国内に陸軍国と海軍国があって内部で戦っていたに等しい情けない状況だった。窮状の中で互いに相手に資材を融通するどころかむしろ邪魔をし、情報が相手に伝わらないように腐心するほどの徹底ぶりだった。苦労して供出された資材を衆人環視の前で陸海軍兵が大乱闘で奪い合う姿を見て、住民は涙を流したという。

最後の原因がここまでひどかったとは知らなかった。
漠然と張り合ってたっくらいの認識だった。
あきれた・・・。
こんなくだらない軍隊でよく戦争する気になったモンだ。
改めて日本人気質を確認した気がする。
確かに今でも脈々とその気質は受け継がれてるもんなあ・・・。
霞ヶ関の役所や財閥系企業をみてもそのまんま。
「みずほ」グループ発足時の醜態は半世紀前とおんなじ。
わっかりやすいなあ・・・。
戦時中の企業はそれぞれの軍からご指名があったとか。
海軍は日本製鉄、陸軍は日本鋼管だったそうだ。
この2社は絶対に合併なんかしないんだろうなあ・・・。
「潰れた方がましだ」とか言って・・・。
長くなったので次回に続く・・・。