珍しくも無い本の雑感22

  • ベスト経済書

帯にはそう書いてある。
「2004年度上半期ベスト経済書100冊」第1位!
そーですか・・・。
2009年、縮み始める日本経済−。
人口を軸に未来を予測した結果、見えてきたものとは?
数々の通念を覆す話題の書!
タイトルは「人口減少経済の新しい公式」
著者は「松谷明彦」氏。
1945年生まれ、大阪市出身。
東大経済学部卒、大蔵省主計局主計官などを歴任。
現在は政策研究大学院大学教授。
いやはや・・・。
バリバリのエリートじゃないっすか・・・。
やたらに重たく見えて来た。

  • 脅し文句

以前から気になってることの1つだった。
日本経済の将来が暗いとか、年金が破綻するとか・・・。
国の財政も債務超過状態だとか、地価は更に暴落するとか・・・。
脅し文句が多くて将来に漠然とした不安が漂ってる。
ジコチューが増えて将来の事なんか誰も考えてない気もする。
実際に世の中がどんどん悪くなってるし・・・。
この漠然とした不安っちゅうのはあずましくない。
この際、ちょっとは勉強しようかなって気になった。
確かにこの本は勉強になった。
最初はプンプン臭ってきそうで警戒してた。
ところが予想外だった。
格調高い知的な文章なのにすんごくわかりやすい。
よっぽどアタマいいんだろうねえ・・・。
難しいことを平べったく書けるのはすごいと思う。
読み進むに連れて周りはウロコだらけ。

    1. 第1章 変化は一挙に  −迫る極大値後の世界
    2. 第2章 拡大から縮小へ −経営環境の激変
    3. 第3章 地方が豊かに  −地域格差の縮小
    4. 第4章 小さな政府    −公共サービスの見直し
    5. 第5章 豊かな社会    −全体より個人
    6. 第6章 「人口減少経済」への羅針盤
  • 人口学

ちゃんとそういう学問があるんだと。
人口学で「高齢化社会」と「高齢社会」とは違うんだって。
65歳以上人口が7%になると「高齢化社会
14%を超えると「高齢社会」と言うんだそうだ。
日本は1970年に7%を超え、1994年に14%を超えた。
この間、24年間だった。
このスピードが問題だと言う。
ドイツは40年、イギリスは47年、フランスは115年かかった。
アメリカは60年前に7%を超えたが、今だ高齢化率は12.5%とか。
日本だけがトンでもなく早く高齢化が進んでいる。
何故、こんなに高齢化スピードが速いのか?
それは日本人の寿命が鬼のように延びたから・・・。
終戦直後1947年の平均寿命は男50.1歳、女54.0歳だった。
ふえ〜っ、ホントに人生50年だったんだ・・・。
これが1970年には男69.3歳、女74.7歳になった。
わずか23年間で約20歳も寿命が延びた。
ってことはヒトが死ななくなったってことか・・・。
同期間の他国の寿命の延びは2〜3歳。
でもどこも寿命は70歳ちょっとだから、要は日本が短か過ぎたんだ。
やっぱ、戦争の影響が大きいんだろうなあ・・・。

  • 日本の特殊構造

日本の人口構成はかなり特殊。
団塊の世代団塊ジュニアがぶくっと膨れたひょうたん型。
とってもいびつな人口構成だ。
よく言われる事だけどこの先恐ろしい状況が待ってるらしい。
2006年をピークに人口は減少に転ずる。
半世紀後には8千万人台まで減少して終戦直後のレベルに・・・。
更に問題は3人に1人が65歳以上の老人になる。
人口推計はいい加減な予測じゃないから間違いない。
何でこんなになっちゃうのか?
人口が減る一番の原因はヒトがバタバタ死ぬからだそうだ・・・。
これまで延び続けて来た寿命もさすがに限界がある。
今まで寿命を引っ張り続けた老人が堰を切ったように逝くとか。
そう言えば、最近このマンションでも老人の葬式が続いた。
何だか真実味があるなあ・・・。
もう一つのいびつな人口構成は国策が作り出したそうだ。
戦後のベビーブームは世界的な傾向だった。
でも日本だけが「優生保護法」でブームを断ち切った。
何故か?
喰い扶持を減らして経済を成長させる為だった。
「貯蓄増強中央委員会」なんちゅうのを作って貯金を奨励した。
このカネを企業融資に回して産業を育成した。
護送船団方式」の始まりだった。
そして経済はその通り急成長した。
経済成長で生活環境も格段に良くなり、寿命が飛躍的に延びた。
今さえ良きゃ将来なんか知らん顔、は日本の伝統らしい。
これからそのツケが一気に回って来る。
労働力は2/3に減るそうだ。
いよいよ経済は縮み始めるという。

  • 人口対策

いろんな対策の声もあるらしい。
まずは良く言われる「少子化対策
子育て支援」して人口を増やす方向に何たらかんたら・・・。
こんなの砂漠に水まいてるみたいなモンだって。
これは「子どもが減って何が悪いか!」でも力説されてた。
外国人労働者の話も良く出る。
著者はこれも国債と同じ発想だと言ってる。
政府得意の問題の先送り、後世代に負担を押し付けるだけ。
しかも現在の労働力を確保するのは至難のワザ。
もし2030年に現在の労働力を確保するなら2,400万人必要とか。
この時の人口の外国人比率は20%を超えるそうだ。
どう考えても現実的じゃないよなあ・・・。
著者は付け焼刃はダメだと主張している。
日本人はこれからの「激変」を受け入れて対策しなきゃならない。
その為の時間はそう多くないと言ってる。

  • 縮小経済対策

これからの世の中は否応無く考えざるを得ない。
著者の考える対策のポイントが並んでいた。

    1. これから企業経営が心掛けるべきことは、「適切な生産量」「効率的な生産」「適切な賃金水準」の3つである。それらを守る限り「人口減少経済」は少しも恐くない。そして同時に企業がそれらを守ることが国民所得を最大とし、国民生活を引き続き豊かなものとする。
    2. 人口の減少高齢化は生活水準の地域格差を縮小する。地方は高齢化の程度が少なく経済的に豊かになり都市部は更に高齢化が進む。経済システムの再構築が必要である。従来のような公共投資主導の経済は維持出来ず、高齢者サービスを都市部に集約するなど公共サービスも濃淡を明確にせざるを得なくなる。
    3. 現行の年金制度は維持出来ない。政府の認識は極めて甘く、事態の深刻さを理解していない。「人口減少高齢社会」では現行年金制度を維持する理由は失われ、年金制度の基本的な考え方を転換せざるを得ない。積立方式への復帰も一法であるが、現在の高齢者には制度の激変は酷なので欧州のような住宅政策による対応が有効である。
    4. 「人口減少高齢社会」では国民全体の貯蓄余力も低下するため投資全体に上限が画されるが、公共事業の拡大=民間投資の縮小は日本経済を縮小させてしまう。公共事業は半減せざるを得ない為、素材産業への影響は大きく日本の産業構造が急速に変貌して行くだろう。
    5. 増税は国民全体の貯蓄余力を更に低下させ日本経済を一層縮小させてしまう。「高齢社会=財政支出拡大=増税」という政府の路線は未熟な財政行動である。「大盤振る舞い」を止めれば相応な公共サービス水準を維持しても財政収支の均衡は可能である。現在の莫大な国債・地方債は永久公債に切り替え、新規発行を厳格に禁止すれば増税は不要であり、それが「人口減少高齢社会」における財政のあり方と考える。
    6. 護送船団方式」により、赤字でも「ある時払い」で銀行融資が受けられる現在の金融システムは「人口減少経済」に適合しない。スケールよりも収益性が最優先される株式市場を中心とした金融システムの再構築が必要である。また、「終身雇用・年功賃金制」により従業員の忠誠心に依存する企業経営システムも通用しなくなる。労働者が流動化する中で効率的な生産管理の出来る人材の確保、経営のあり方の再構築が必要である。
    7. 1939年の「賃金統制令」翌40年の「従業員移動防止令」による戦時経済体制の産物である「終身雇用・年功賃金制」は人口構造の変化で崩壊せざるを得ない。今までの安い賃金で長時間働き「安かろう・悪かろう」の大量生産で急成長し、「GDP世界第2位の貧しい国民」を作り出した日本経済の問題点は是正されるだろう。人口の減少高齢化が人々を豊かにする。

何だか将来が明るくなって来た。
でも、この著者ってすごい!
こんだけいろんなことがわかってるなんて・・・。
大蔵省にこんな人材がいたのに、なんで今の日本なんだべ?

  • 豊かさ

この本で一番感じ入ったのは第5章。
「豊かな社会−全体より個人」の部分かな・・・。
「豊かさ」って何だべ?
経済規模?
日本のGDPは世界第2位、ドイツの2倍、英仏の3倍以上・・・。
だからどうした?
とても日本人が豊かとは思えないんだけど・・・。
見事なまでの飽食、平和ボケ、質の劣化・・・。
カネでしかモノを計れない心の貧しさ・・・。
ウサギ小屋を買うために低賃金で身体壊すまで一生働いて・・・。
これが戦後の日本経済を支えて来た日本人の平均像だべ。
でも、もうこの構図は限界に近づいてる気がする。
若いのは六本木ヒルズに住むか、フリーターNEETになるか二極化。
金保険料なんてバカらしくて払えるか!
ジコチューと言われても俺ややりたい事だけやる。
例えそれが犯罪でも関係ね〜よ。
っていう世の中になって来てる気がする・・・。
気のせいじゃないよなあ・・・。

  • ライフスタイル

幸か不幸か「人口減少社会」はこの傾向を変えられるらしい。
日本人のライフスタイルを変える可能性が大きいと言う。
但し、所得水準の二極化は避けられない。
専門技能に基づく賃金体系に変化するから・・・。
専門技能を持つヒトは高い賃金で働ける。
でもカイシャには縛られない。
終身雇用の崩壊で「働かない自由」も生まれると言う。
小金を貯めたら世界旅行して帰国してから又働くなんてのもあり。
そう言えば海外旅行に行くと、海外のこう言う若者に良く出会った。
デイバッグしょって半年〜1年のスパンで世界を歩いて回っていた。
当方が1週間の旅行だなんて言うとあきれてた。
それはいいなあ・・・。
ちょっと生まれて来るのが早過ぎたかなあ・・・。
自己責任は強く求められるようになると言う。
老後の生活も視野に入れた生活設計をする必要があるそうだ。
そして増加する余暇時間をどう使うか?
これはこれからリタイアしようとする世代に切実な問題・・・。
でもじゃぶじゃぶのライフスタイルを一気に変えるチャンスかも・・・。
個人的には自分達はすっごい幸運だと思ってる。
戦後に生まれて何とか戦争の無い半世紀を過ごせた。
それだけでも有難いこった。
でも著者が言うように明るい将来があるなら更に有難いこった。
将来が明るくなる素晴らしい本だった。
この著者が総理大臣やったらどうだべ・・・。