珍しくも無い本の雑感21

  • 王道

読む場所によって本って左右される。
とは言ってもそんなに沢山の場所がある訳じゃ無いけど。
現在は3箇所。
1つは会社の早朝読書。
これはビジネスっぽい臭いのするハードカバーなどが中心。
持って歩くのはヤ!ってえ本が多い。
2つ目が東京までの電車用。
朝はまだアタマが起きて無い状態。
帰りは酔っ払い状態が多い。
この時間はやはり軽めの読み易いモンがいい。
時間も1時間だし、途中で寝たりするし・・・。
絶対に文庫本だ。
読んでる途中で寝込んで本を落としても大丈夫。
恥ずかしいけど、ヒトの足にケガさせる心配は無い。
3つ目は長距離移動用。
最高なのは海外旅行に行った時。
何つったって飛行時間12時間以上はザラ。
安い飛行機会社なら途中の空港のトランジットですぐ4〜5時間。
こんなに時間を贅沢に使える事は滅多に無い。
普段なら出張の時。
時々、大阪事業所なんかに出張する事がある。
この時は片道4時間くらい稼げる。
じっくり本にハマれる時間だ。
一番読みたい本をこの時の為に温存しておく。
読み応えのある本、長編、濃厚な赤ワインみたいな・・・。
出来れば古い小説がいいやね。

  • 「道草」

今月は大阪事業所に2回出張があった。
それと埼玉の事業所にも2回。
結構な時間が稼げて、この本を読んだ。
夏目漱石」は学生の頃にハマった。
貧乏学生だったので古本屋通いだった。
ほとんど全部読んだ積りでいた。
でも違った。
幾つか残ってた。
この作品は漱石が完成させた最後の小説だそうだ。
このあとは「明暗」と言う未完成の作品が1つあるばかりとか・・・。
知らんかった。
確か漱石の「後期三部作」とかがあった気がする。
彼岸過迄」「行人」「こころ」
大仕事を成し遂げて疲れがどっと来たんかな?
この作品は完全に自叙伝だった。
それもかなり赤裸々と言うか、自虐的と言うか・・・。
49歳でこの作品を書いて、翌年、死んでしまったそうだ。
作品の中でも主人公はかなり健康を害している、と記されていた。
何か最後に人生を振り返って、おさらいして亡くなった様な・・・。
人生50年の時代だったんだなあ・・・。

  • 90年前

何と今から90年前に書かれた作品だ。
当然、言い回しは古い。
今の若いヒトから見たら時代劇と差が無いかも・・・。
本は旧仮名づかいを現代仮名づかいに改めて記されている。
漢字にはこまめにルビが振ってある。
注釈も107ヶも付いてる。
もう、至れり尽くせりの懇切丁寧さだ。
ちょっと字が小さくてつらいが、まだ何とかなる。
1世紀近く昔の日本は今から想像するのは難しい。
でも不思議と別世界と言う気がしない。
一般小市民は皆貧しい。
電気も通っていない。
洋燈(ランプ)や火鉢の世界だ。
夏は蚊帳を吊ってウチワでパタパタ・・・。
何と無く子どもの頃はそれに近い世界だった様な気がする。
どこと無く懐かしい。

  • 満足感

やっぱ、良かったあ〜・・・。
多少目がつらくても頑張って読む価値はある。
あ〜読んだ〜って気がする。
何だろう・・・?
めっちゃ安心感があって、ハマれる。
その世界に没頭出来ちゃう。
いつの間にか主人公と同じ気持ちになってる。
主人公は親族郎党から変人扱い。
周りからは、主人公は「ネコ」で一発当てた金持ちと思われている。
カネは幾らでも入ってくると思われている。
寄ってたかって無心に来る。
実は主人公はカネの観念がまったく無い。
夫人が質屋通いしながら生計を立てているのに、まるで頓着無い。
周りはカネをよこすのが当然だ、みたいな振舞いだ。
・・・どこかで見たような・・・。
ついつい主人公の気持になりきってた。
危うく漱石と同じ様に胃潰瘍になりそうな気がした。
漱石は鏡子夫人と折り合いが良くなかった。
ことごとくぶつかり、口論となり、口を利かなくなる。
どう見ても漱石が大人気ない。
偏狭だ。
生来の性質と言えばそれまでだがこっちがイライラする。
っと思わせるくらいハマれる。
コトバに出来ないくらい巧いんだろうな。

  • 「則天去私」

「天に則り私を去る」
これが漱石の理想だそうだ。
解説によるとこの主人公は36歳。
49歳の漱石が自分の人生を振り返って見ている。
理想にほど遠い自分だが、ある程度の高みには辿り着いた。
それは壮年期の至らない自分を見下ろす事が出来るくらいの高み。
至らない自分の「我」をとことん曝け出してやろう。
そして「我」を打ちのめしてやろう。
そうする事で理想とする「則天去私」の境地に近づける。
と考えたのがこの作品だそうだ。
なるほど・・・。
だから強烈に響いて来るんだ。
自分の「我」を、醜いほどに赤裸々に俎上に乗せる。
インテリで、高慢ちきで、優柔不断で、世間知らず。
偏狭で、理屈っぽくて、負けず嫌いで、愛情に飢えてる・・・。
言ってみりゃ、すごく人間臭い愛すべきキャラ。
表現はかなり露骨だ。
あんまり露骨で、読んでる方の胸がチクチクする。