珍しく無くなった本の雑感Ⅸ

  • 「Rボン館」

近所の古本屋の名前だ。
上手い!と思った。
確かに古本屋は本のリユースだ。
学生時代を思い出しながら眺めていると結構時間が経ってしまう。
あれこれ思い出してついついはまっちゃう。
全く知らない本にも出会える。
何と無く景色とタイトルと文の調子で意外に面白い本に出会える。
こう言うノリで買って来る本も結構ある。
新聞・雑誌の紹介コーナーでピックアップされる本も外せない。
自ずと「積ん読本」が増える。
それでも何かの拍子で昔買った本をほじくり出して読んだりする。
それも又一興だ。

  • 因縁の本

偶然は面白い。
懐かしい本を見つけた。
「ワイルド・スワン」だ。
しかも何故か「上」と「下」が置いてあった。
この本には因縁がある。
嫁さんもたまに本屋に行って感覚で本を買って来る。
買って来る本の判断はもちろん直感以外の何物でも無い。
でも不思議と外さない。
間違い無く9割がた読んで後悔する事は無い。
もう10年くらい前だったと思う。
ある日、嫁さんが「ワイルド・スワン」を買って来た。
それも何故か「上」「中」「中」の3冊だった。
「何で?」
「そ〜ゆ〜事もあるべ〜じゃ〜」
訳が分からない。
それでも嫁さんはちょっと読み始めた。
が、程なく挫折した様だった。
「俺が読んでも良いかね?」
「良いわよ」
とか言いながら結構な長編なので踏み切れずにいた。
暫くして嫁さんのお袋さんが膝の手術の為に入院した。
内科系の病気では無いので入院生活は基本的にヒマだ。
「何か本を持って来て欲しい」と頼まれた。
嫁さんは「ワイルド・スワン」を持って行った。
もちろん本屋に行って「下」を買って「上」「中」「下」揃えた。
お袋さんは大変感激していたらしい。
こうして我が家の書架に「中」だけがポツンと残っていた。
ヘンな形で読み損なった。
これは何かの因縁だ。
思わず「上」と「下」を買って来た。

  • 手記

この3冊を1ヶ月くらいかけて読んだ。
東京の本社に行く時は必ず携行する。
電車の中はこれと決めて読んでいた。
作者の「ユン・チアン」は1952年生まれ。
何だ、大して違わないじゃん。
訳者の「土屋京子」は1956年生まれ。
何だ、ますます同世代じゃん。
内容云々以前にこの訳者の日本語は素晴らしい。
変にこねくり回していない自然な文体で好感が持てる。
全く違和感無く、分かりやすく、しかも軽佻浮薄じゃ無い。
こんなにすんなり読める日本語に会ったのも久し振りと言う気がする。
何よりこの日本語訳に一番感激した。
それにしてもノンフィクションの迫力は凄い。
作者の手記と言う形式だがもの凄いパワーを感じる。
この同世代の女性の数奇な運命には圧倒される。

  • 衝撃的真実

この本の帯には「現代中国の衝撃的真実」と謳ってある。
イギリスが選んだ「今世紀の100冊」ともある。
世界中30カ国以上で翻訳・出版されたそうだ。
確かに衝撃的だ。
我々は生まれてこの方、戦争も喰えなかった時代も知らない。
平和ボケで飽食・使い捨て・脳天気で漫然と毎日を送っている。
隣のすさまじい国では生きるか死ぬかの世界が同時進行していた。
思えば情報は断片的に入っていた。
毛沢東周恩来訒小平の名前も聞いていた。
江青やら4人組と言うのも聞こえていた。
でもこれらの人物が中国にどの様な影響を与えたか全く分かっていなかった。
事実は小説より奇なり。
その作者の視点で見れば毛沢東は極悪人の独裁者と言う事になる。
それを頂点にまつり上げて盲従した国民はあまりに悲しい。
この国民のパワー、逞しさ、残虐性、無神経などがリアルに伝わって来る。
官僚的腐敗組織構造、人脈地脈最優先社会、農村と都市部の経済格差拡大・・・。
如何にも日本の社会構造のお手本になっている国らしい。
そう言う意味ではもの凄く分かりやすい。
いちいち「そうだろうなあ・・・」「有り得るよなあ・・・」と思う。

  • 王(ワン)大使

予想通り苦労してる。
政冷経熱」と言われて久しい。
ワンちゃんはこの解決の為に就任したと言っても過言じゃ無い。
でもなかなか「政」は暖まらない様だ。
靖国参拝問題、ガス田開発問題、潜水艦問題に加えて李登輝氏ビザ問題が浮上。
もともとこの辺りの国では常に仮想敵国は欠かせなかった。
国民の目を外に向けて国内矛盾をごまかすと言うのは独裁者の常套手段。
だけどもう中国くらいになれば不要な気がするけどなあ・・・。
染み付いた体質か、農村部の不満のはけ口か・・・。
本当に付き合いたくないならよせば良いのに・・・と思う。
不幸な歴史は我々も認識してるつもりだ。
でも60年も昔で、その時代を知ってる人間がどんどん減っている。
もういい加減に明日を見たらどうかと思うけど・・・。
苦しいけどワンちゃん頑張れ!