和食屋の雑感Ⅲ

この街でこの名前を知らないとモグリと言われる。
1世紀昔のジャーナリストらしい。
JR駅の南側、丁度この辺りに屋敷を構えた。
屋敷跡は現在「村井公園」、その前の通りは「弦斎通り」となっている。
「弦斎通り」の名前は昨年突然出来た。
辻に石柱が立ち、急に通りが整備された。
公園は我が家から徒歩1分。
夏場の「まおさん」に重宝している。
松林が涼をもたらし「まお」が心置きなくウンコ出来る。
いつも弦斎さんには感謝している。
実は弦斎さんはジャーナリスト云々より食通として有名らしい。
自分流の膨大なレシピを残した事で知られている。
ここ数年、このレシピを再現するのが密かなブームになっている。
「弦斎ソバ」とか「弦斎カレーパン」とかが街で売られている。

  • 支えるヒトビト

弦斎料理再現の運動をしているヒトビトがいる。
ちょくちょく会を催して再現した料理を味わっているらしい。
趣味の会の様な街興しの様な・・・。
毎年、10月の初めには「弦斎まつり」もある。
「村井公園」に舞台まで登場して、笛や太鼓でどんじゃらほい。
大勢のヒトがまつりを盛り上げようと活躍している。
毎年「まおさん」で通りかかるが人出は多い様な、多く無い様な・・・。
そんな弦斎運動の先頭を切ってる有名人がいる。
割烹「K柳庵」を経営する鳥海氏だ。
この街のミニコミ誌にもちょくちょく出て来る。
話題は必ず「弦斎料理の食道楽」である。

  • 客人

東京から客人あり。
どこかで食事をセットしなければならなくなった。
さて、どうしよう。
この街には接客に耐え得るお店は限られている。
上司のリクエストは最上級であった。
東京のヒトが頷いてくれる店で思いつくのはここっきゃ無い。
鳥海氏の「K柳庵」だ。
まあ、間違いは無いと思う。
面白いオヤジなのだ。
最近は忙しくなってしまって出て来ないが、以前は良く席に顔を出した。
器から食材まで一家言有るのでなかなかの薀蓄である。
テレビで有名な道場六三郎はマブダチだとか・・・。
まあ、ハッタリも興の内。

  • 献立

ここのメニューが面白い。
お任せにしておくと料金のバラつきが理解の範囲を超えている。
今日の料理は凄いなあ・・・これは高えぞ。
と思うと意外に5,000円程度だったり・・・。
今日はそれほどじゃ無かろう、と思っていると8,000円だったり・・・。
良く分からない。
以前は交渉で「今日は金が無いので8,000円でフグを頼む」
なんて事が可能だった。
最近は画一セット料金になって来た様だが・・・。
そんな訳で一応バラつきを警戒して、フグを頼んだ。
10,500円である。
メニューは煮こごり、フグ刺し、焼きフグ、唐揚げ、ちり鍋・・・。
間違い無い。
カワハギでは無い。
上等な料理が続く。
最後に雑炊を作ってくれた。
美味かった。
でも本音は雑炊が一番美味かった小市民だった。

  • 懐石料理

ホントは「貴柳庵」の真骨頂はお任せの懐石料理だと思う。
バラつきはあるが外す事は無い。
若者には辛いかも知れないが、少しずつ料理を味わうには丁度良い。
味はオヤジが薀蓄たれるだけの事はある。
基本的には上品な料理である。
味も薄味だ。
が、不思議な事にナベの後の雑炊にはヘンな拘りを持っている。
ダシ汁を火にかけてご飯を加えたらそのまま煮詰める流儀なのだ。
当然、煮詰まった雑炊はしょっぱい。
いわくナベのエキスを全部吸収した雑炊だ。
ま、そりゃーそーかも知れないけど・・・。
何故か雑炊だけは下品な味なのだ。
小市民はこの下品さも結構好きなんだけど・・・。