和食屋の雑感

  • 新規開店

家から徒歩1分のところに和食屋さんが出来た。
「N菜」と言うスローフード志向の店である。
一度、嫁さんが昼食に行って来た。
昼は2,500円のコースのみで営業しているそうだ。
お友達と連れ添って、たまに年に1度くらいの豪華ランチ。
2,500円はしょうが無いか。

  • サラ川

第一生命が毎年発表するサラリーマン川柳にも確かこんなのがあった様な・・・。
「頼むから 昼めしフレンチ やめてくれ」
聞いてみるとサラリーマンの昼めしは大変なのである。
280円の牛丼、コンビニ弁当、マックのハンバーガーだけ、とか寂しい。
片や、奥方連はフレンチのランチコースとかケーキバイキングとか・・・。
軽くご主人の昼めし代の10倍以上だ。
きっと夕飯時に「安い割には美味しかった・・・」とか話が出るんだろう。
ご主人は自分の惨めな昼めしが頭を過ぎる・・・。
きっとこんな構図なんだろうな。
でもお店側の狙いは大当たりだと思うが・・・。

  • 我が職場

幸いにして小市民は昼めしに全く不自由は無い。
職場に立派な食堂が有って充実している。
カフェテラス形式で喰えるもんなら3,000円喰おうが5,000円喰おうが構わない。
なかなか恵まれた環境である。
東京勤務の人は大変そうだ。
たまに東京に出掛けた時にオフィス街を埋め尽くす弁当屋にはびっくりする。
事務所のデスクで弁当とかサンドウィッチ喰ってる人が結構いる。
ジャンクフードに慣れた若者だけじゃ無い。
定年近い様な世代の幹部クラスでもそんなのがいる。
事情はお店が少ないとか時間が無いとか言う事らしいが、惨めである。
「食べる」と言う事に対して不遜だとさえ思ってしまう。
サラ川を思い出す。

大きく脱線した話を戻す。
嫁さん情報によると、「N菜」は滅茶苦茶素材に拘っているとか。
虫が食った野菜を中心とした和食、薄味、上品と言う事だ。
と言う訳で今日は初見参。
テニスでクタクタの身体を引き摺って階段を登った。
お店は2階である。
「和」をコンセプトに小さいながらも近代的な小洒落た造りだ。
確か、元はカラオケスナックだった場所だ。
厨房はかなりコンパクトにまとめてある。
お品書きはシェフお手製らしい。
「あいだみつを」調の筆字だ。
スローフードを前面に出して拘りの地元野菜中心の献立である。
試しにコースでお願いしてみた。
コースはお造り付き4,800円と無しの3,400円の2種類。
取材班としては夫々1つずつ注文。
嫌な客である。

  • チャレンジ

まずはビール。
エビスの生だった。うめ〜。
テニスで脱水気味の身体に染み渡る。
一心地ついて、店内を見渡すといろいろ小物も拘ってる。
食器類も1つ1つ拘りが見える。
テツビンにお湯が沸いている。
お茶はこれで入れてくれるんだそうだ。
ビールと共に小鉢の小松菜のお浸しが出た。
これを食べただけで当店の味の全体像が見えた気がした。
美味しい。

お造りはイシダイとアカイカとイワシ、地物の新鮮な魚だし美味い。
盛り付けも丁度良いはずだった。
小市民も歳と共に刺身をバクバク喰う事は無くなった。
ホンの少し味わうくらいで丁度良い。
と思いきや、意外にも嫁さんがバクバク喰ってる。
「あれ、ナマ魚って喰えないんじゃ無かったっけ?」
「最近、全然大丈夫。地物は身体に合ってるみたい」だそうだ。
札幌にいた頃はナマ魚を喰うたびに食あたりだったのに・・・。
身土不二ってヤツかな。

  • コース料理

椀物はハモとじゅん菜の吸い物、上品な良い味だ。
焼き物はアブラの乗ったタチウオの塩焼き、これは絶品だった。
ますますビールが進んでしまう。
揚げ物の代わりにゴボウの効いたすき焼き、これも薄味で美味い。
ニンジン、ナス、トウガンの煮物、焼インゲンとブロッコリの入った山芋の冷製、
などなど次々と味の濃い野菜が出て来る。
ますますビールが進んでしまう。
さっきからずっと気になっていたが、石釜で野菜がコトコト煮えている。
当店名物の丸ごとタマネギと虫食いキャベツの石釜炊きだそうだ。

  • 飲み過ぎ

美味くてビールが進む。
飲み過ぎた。
石釜が登場した頃にはお腹一杯。
でも、折角これだけ手を掛けてくれた料理を残すのは忍び無い。
野菜完食。
トドメがあった。
タイとウニの炊き込みご飯だ。
一口だけ食べたが、これが又、何とも言えず美味い。
炊き上げたコメの食感が又、良い。
流石に、降参して残りはおにぎりにしてテイクアウトさせてもらった。
しくじったなあ。
これだけのボリュームだったら、もう少しビールを抑えるんだった。
若しくはワインも充実していたので、それも手だった。

  • 料理の総評

講評出来るほどの舌は持ち合わせていないが、率直な感想。
流石にスローフードを冠しているだけの事はある。
味の濃い野菜をベースに絶妙の薄味、と言った感じかな。
我が家は元々薄味好みなので、一発でOK。
仕事も丁寧だし、この味付けだったらどこへ出ても通用するんじゃ無いかな。
何より素材への拘りが凄い。
1つ1つ、野菜本来の味を思い出す気がする。
そうだ、ニンジンってこんな味だった、ジャガイモも土の香りがしてた、とか。
シェフ自身、こんな野菜を食べているとそこら辺の野菜が喰えなくなるそうだ。
嫁さんが前回ここで食べて、次の日に身体が元気になったと言っていた。
科学的には怪しいが、精神的には良く分かる。

  • レパートリー

やっと食事のレパートリーが増えた。
これなら足を運べる。
聞くとシェフは神奈川県小田原市出身、十代半ばから修行して来たとか。
何と27歳、伊豆や東京で修行を積み、この街に来た。
この街の料理屋「Iけん」の社長に見込まれ、「Nなか」を任されていたそうだ。
そこから独立、自身の城を興した訳だ。
大したモノである。
どうしてそんなに甲斐性があるんだろう。
しかも腕は確かで、小市民の舌はイチコロでやられてしまった。
迷惑かもしれないが、我が家のレパートリーに加えさせてもらう事にした。
但し、いくらコストパフォーマンスが高いとは言え、毎週行ったら破算する。
時々、身体に元気を吹き込みに行く事になるだろう。