大先輩の通夜のこと

・巨星
 「巨星墜つ‥‥。」
これ以外の言葉が浮かんでこない。
前の会社の大先輩。
っつか、人生の大先輩。
尊敬して止まない大先輩が旅立った。
享年76歳。
もっともっと、長生きして欲しかった。
そうじゃない輩がゴロゴロしてるのに‥‥。
「世の中、不条理だよなー。」

 見た目は布袋さん。
だるまさん体型で、七転び八起き。
っつか、泰然自若。
酒を愛し、タバコを愛し、書を愛した。
「酒の量はハンパなかったなー。」
博学なのに、全くぶらない。
ずいぶん湘南の史蹟も教えて頂いた。
芸術が好きで、歴史が好きで、絵心溢れる。
「オンデコ座の大ファンだったなー。」
最近は、絵手紙に凝っておられた。

・市営斎場
 東武野田線のN田市駅。
ここからタクシーで行くしかない。
ところが、駅前にタクシーの姿はない。
同じような境遇の衆が増えて来た。
「タクシー、全然いませんねー。」
交番に訊きに行った。
親切にタクシー会社に電話してくれた。
「今出払ってて、もうすぐ戻って来るそうです。」
なるほど、その内続々と戻って来た。

 タクシーの運ちゃん曰く。
「何でしょう?今日はずいぶんヒトが多いですねー。」
決して便のいい所じゃない。
著名人の場合、バスが仕立てられるそうな。
タクシーの数が全然足りない。
ピストン輸送状態だとか。
すごいヒトの数だった。
斎場内に全然入り切れない。
ロビーもびっしりヒトで埋まってる。
「お人柄が表れてるよなー。」

 大先輩は、1年前に入院した。
泌尿器系の癌だとか。
その時、見舞いに行くと笑ってた。
「医者に、好きにしていいって言われたよ。」
酒も、タバコも止めないと。
「何の為に生きてるか、わからんものなー。」
退院して、自宅療養してた。
数多のお誘いも、調整しながら応じてた。
「さすがに酒も飲めなくなったなー。」
ちょっと寂しそうだったとか。
あくまで、自然体。
とてつもなくでかいヒトだった。
「巨星墜つ‥‥。」